辻本好子のうちでのこづち

No.024

(会報誌 1996年12月15日号 No.76 掲載)

「対論 はたして医療は消費?」を終えて
情報を知りコスト意識を持つために

 本年1月号からの連載「対論 はたして医療は消費?」では、COMLの問題提起を受けた形で、医療を提供する側と受ける側のそれぞれから賛否両論、じつにさまざまなご意見をいただきました。本号をもって一応の連載の終了とし、ご意見を届けてくださった方々をはじめ、辛抱強くCOMLのこだわりにつきあってくださった読者の皆さまに心よりお礼申しあげます。

医療者の本音にも出会えた連載

 掲載されたご意見の多くは、医療者から寄せられたものでした。当初の企画としては患者サイドの意見もぜひ掲載したい、と目論んではいたのですが……。残念ながら、患者の立場で堂々と医療者を相手に論陣を張ろう、と言ってくれる人は少なく、結局医療者中心の発言に終始してしまいました。このことは、あたかも医療現場における患者と医療者の関係を象徴していると、そんなふうに思うのは“うがち過ぎ”でしょうか。それともやっぱり、患者の勇気と努力が足りないことの表れかもしれませんが……。
 ところで、患者サイドの読者の方からは「それぞれのお医者さんの個性や診療現場での姿までが現れてくるようで、とても面白い」という感想がしばしば届けられました。もちろん、なかには「難しくて面白くない」「いつまで続けるつもりか?」という批判の声もなかったわけではありません。しかし、おおむね好評だった理由の一つには、多分、診察室で向きあっただけでは絶対に見えてこない医療者“その人”の、ものの感じ方や考え方そして問題解決の方向性といった“思想の一端”に触れられたこと。つまり、日頃あまり耳にすることのできない医療者の方々の本音に出会える場でもあったのでしょうか。さらに言うならば、これまでひとつの問題を異なる立場から論じあうことが、あまりになさすぎたということだったのかもしれません。

患者の責任で医療を選ぶ時代

 さて、さまざまなご意見に耳を傾けさせていただいたこの一年。しかし結局のところ、はたして医療が消費であるのかないのかの結論には至りませんでした。当然と言えば当然のことかもしれません。もちろん当初から、誰の意見が正しいとか間違っているということを問題にしたわけではありませんでした。おそらく人の数だけそれぞれに、微妙に違った意見があって当然と思っていましたから。むしろ、違いを認めあいながらも協働する関係に憧れたCOMLの“企て”に多くの方々が関心を寄せてくださったこと。そしてCOMLの思いまで代弁していただけたことに喜びを感じています。さらなる活動の展開の大きなエネルギーをいただいた思いです。COMLが医療消費者を名乗ることも同様の問題、つまりは決して間違っているわけではないということを改めて確認させていただきました。
 いま私たち患者を取り巻く医療周辺は大きく変わろうとしています。これまで社会保険料と税だけに頼ってきた医療財政もついに破綻のときを迎え、先頃には医療保険審議会が制度改革案を提出。具体的な患者の自己負担増が示されています。患者が自分のことは自分で決めたいという権利意識に目覚めた以上、医療情報を「知る」ことと「コスト意識」を持つことの努力が必要です。いよいよ医療にも消費者の目を向け、自分の責任で安心し納得できる医療を選ぶ意識を高めてゆきたいと思います。