辻本好子のうちでのこづち

No.184

(会報誌 2010年7月15日号 No.239 掲載)

そして…胃がん①

まさかの発症

 先月、「“再来”に向け、語り続けることを心に誓って、COMLの次の次、30年目を目指します!」と宣言したばかりだというのに、急転直下!
 こんどは、胃がんになりました。

 二人に一人ががんになる時代に一人で二つのがんになるなんて……。
 どうして、それが私でなくちゃいけないの??

 だけれど、ひょっとすると、これは生まれる前から決まっていた運命、つまり宿命だったのかもしれないなあ〜。

 いやいや、そうじゃない!

 宿命ではない、これは天命なのかもしれない!
 そうだ、天命だ!
 そう、絶対に天命に違いない!!

 『日進月歩の医学・医療において、8年前の乳がん体験なんぞはもう古い。過去の“遺物”を伝家の宝刀のように語るなんぞは、おこがましい。人様に語る役割を与えられている以上、最新のがん治療を身をもって“学習”してきなさい』

 そんな天からの指令が下った、私に与えられた“役割”なんだ……!!

2つのがんとともに生きるスタート

 驚きと拒否という、お決まりのコースで心が大きく揺れたあと、こんなふうに思うことで心のチャンネルが不思議に切り替わりました。それまで、なんとなくフワフワしていた足元が、どっしりと地に着いて、少しずつ気持ちが落ち着いてきたんです。そして、いま、ここで、今日中に、明日には、さらには手術までに何を為すべきかが、次々と思い浮かんできて手元のメモがビッシリ。さあ、忙しくなるぞ、メソメソ、オロオロなんてしちゃあいられないとばかり、急にあわただしい気持ちになりました。
 もちろん、思ってもいなかった大きなショックを受けて、うろたえないほうが嘘になります。しかし、「悪性」の知らせを受けた数分後に、手帳を開いて講演や会議の予定を確認し、先方に事情を伝えてキャンセルや変更のお願いをする、そうした事務作業に淡々と向き合えたのも、当事者の私でなくてもできることを段取りよく次々と、着々と、執りおこなってくれる頼もしい存在がいてのこと。人を支えるということは“こうすること”なんだと、見事なまでに体現してくれる山口と再びスクラムを組んで、仕事だけではなく、乳がんと胃がんという二つの「もちもの」と共に生きる“道のり”を歩むことになりました。

疑ってもみなかった悪性の結果

 どちらかといえばストレスフルな日常に望んで身を置くタイプ、身の丈以上の役割を与えられると奮い立つ悪い癖も。目の前にそびえる木が大きければ大きいほど無理を押してでも登りたくなるし、誰も通ったことのない道を選んで進みたい志向性。そんな人間の胃の肺が“やわ”であってなるものか、美味しいものを食べることが私を支えるエネルギーになるのだから。「生きる楽しみは食べること!」などと豪語しながら、美味しいもの情報には鵜の目鷹の目。周りの誰もが認める(?)食いしん坊であるだけに、自分でも胃腸だけは人一倍丈夫なんだと信じていました。
 ところが4月初旬から胃の辺りに違和感を覚えるようになり、5月に入ると空腹時にきつい痛みが起きるようになりました。とくに夜中の2〜3時に痛みで目が覚めることが数日続くようになって、ようやく胃カメラ検査を受ける気持ちになったのです。以前、口からの内視鏡検査を受けたことがあって、多少の拒否感が残っていたのでしょう。たまたま知り合いのドクターが鼻から入れる内視鏡を導入していると聞き、鼻からの検査だったら……と、私なりの妥協でもありました。
 内視鏡検査で親指大の潰瘍が見つかったとき、ドクターが「こりやあ、痛いわなあ〜」と共感してくれた言葉が妙に嬉しくて、半分治ったような気持ちになりました。念のため、とりあえず周囲3ヵ所を内視鏡でつまんで「生検」に出しておこうということに。処方された薬さえ真面目に飲んでいれば消えてなくなると、そのときは「悪いもの」だなんて、まったく疑ってもいなかったのです。
 検査から6日目の月曜日の朝。たまたまこの日は珍しい事務所ワークの一日で、机に山積みの手紙や書類に目を通す作業を始めた直後でした。内視鏡検査を担当してくれたドクターからの電話で、生検した組織が「3つとも悪性」たったことが知らされたのです。
 えっ、嘘、まさか……!!
 まさに青天の霹靂でした!
 しかし、突きつけられているのは疑う余地のない現実。すたこら逃げ出せるわけもありません。「悪性」などと微塵も疑っていなかっただけに、正直、うろたえました。乳がんのときは、多少の心の準備ができた状況で受け止めたことを覚えていますが、今回ばかりは……。
 このあと造影剤の内視鏡検査やCT検査など、手術に向かうスケジュールが超特急で走り始めています。どこまで胃を切除するかもこれから決まっていくでしょう。電話相談などで、胃切除後のダンピング症候群の患者さんやご家族の苦しみを聞いているだけに……楽観はしていません。しかし、決して悲観もしていませんので、どうかご心配なく。しばらくお休みをいただくことになりますが、どうか、よろしくCOMLをお見守りくださいませ。