辻本好子のうちでのこづち

No.169

(会報誌 2009年4月15日号 No.224 掲載)

病院の第三者評価の充実に向けて議論

 COMLが誕生して5年目にあたる1995年、この年の厚生白書に溢れるほど登場したのが「医療サービス」というキーワード。そして、同じくこの年に厚生省(当時)と医師会の共同出資で『財団法人 日本医療機能評価機構』(以下、機構)という第三者機関が誕生しました。その機構が14年目の活動に向けて、これまでを振り返り、見直しを図る検討会に委員として参加しました。

衝撃を与えたキーワード“医療サービス”

 「医療サービス」というキーワードは、1993年あたりから医療界で話題になっていましたが、厚生白書に羅列されるやいなや一気に医療現場に激震が走りました。当時、もっとも強く反発したのはドクターたち。自らの業務を他のサービス業となぞらえられていたくプライドが傷つけられたのかもしれません。あちこちの学会などで『果たして医療はサービスか?』といったアンチテーゼとも思えるテーマが掲げられ、当時すでに大流行になっていた「インフォームド・コンセント」の議論とともに大いに盛りあがっていたことを、私は遠くから冷ややかに眺めていました。
 日本だけではないようですが、この頃の医療はパターナリズム(父権性温情主義)という言葉に象徴され、医者と患者の上下関係が“当たり前”だった時代です。上の者(ドクター)の意思や命令を下位の者(患者)に通じさせる、いわば上意下達の世界だったのです。もちろん患者の私たちも、自分の大切ないのちやからだの問題をすべて人任せにし、「お任せします」と甘えているだけ。ドクターの言う通りに従ってさえいれば、親切、丁寧、優しく扱ってもらえ、<私だけには>良い医療を提供してもらえるはずと信じ、疑おうとさえしませんでした。そうしてお任せした結果、思うようにならないと恨み辛み、泣き寝入りするしかないと諦める受け身でしかおりませんでした。
 しかし、「パターナリズム医療」や「お任せ医療」にピリオドが打たれ、時代が大きく動き始めたのです。そのきっかけ、変革の原動力になったのが「インフォームド・コンセント」や「セカンドオピニオン」であり、はたまた「医療サービス」という外来種のキーワードでもあったのです。ただ当時、何の前触れも学習もないまま、突然「医療サービス」と言われて、私たち患者は大いに勘違いしてしまったことも否めません。しかし、なにより日本の医療にとっての大きな変革の始動、それが第三者機関が病院の医療機能を評価するという機構の誕生でした。

質の向上と患者の理解

 機構の審査とは、病院長や看護部長、さらには事務長など管理職を経験した(あるいは現役)サーベイヤーと称する数名が、病院から事前に提出された書類を審査したり病院に赴いて現場を視察したりして、当該病院の組織活動を第三者的に評価する活動。問題点を把握し、指摘し、改善活動に取り組む指導などを目的とする、鳥の目のように病院を俯瞰する視点で、5年ごとに再審査がおこなわれています。じつはこれもアメリカの医療現場で始まった活動で、日本に直輸入されて「医療サービス」というキーワードとともに1995年に始動したのです。
 機構がこれまでに認定してきた病院は全国に2500ほど。現在、全国に病院が8800余りあることから言えば、未だ6300余りの病院は受審していないことになるわけです。そこで検討会では、今後の機構の取り組みが、未受審の病院の質の向上になくてはならないとされるために何を見直し何が必要か、という議論を重ねました。たとえば、5年間隔では病院スタッフに中だるみが生じるという現場の声から短縮の方向性を探ったり、サーベイヤーの質の管理と更なる向上に何が必要かを厳しく議論したり。
 しかしいまだ興味を示さない6300余りの病院の未受審の理由はともかくとして、じつは患者の立場の私たちにとっても機構の活動内容はほとんど理解できていないのが実情です。皆様も地域の大きめの病院へ行ったときなど、病院のエントランス、あるいは正面玄関の壁あたりに掲げられた機構の「認定書」をご覧になっているはず。しかし、機構という組織ばかりか認定書の意味するところさえ、ほとんどなにもご存じないのではないでしょうか。
 じつは機構がスタートする2年ほど前のこと。現在、機構の理事を務めるお二人から「患者の意見を聞きたい」と非公式にお声がかかり、機構をスタートさせる背景や活動目的を説明され、意見を求められました。そのなかで見えてきたことが、病院を評価する活動なのに<患者を組み込む計画は皆無>ということでした。もちろん当時、患者の立場で客観的かつ多角的な視点で病院を評価するサーベイヤーの役割が務められる人など誰一人いなかっただろうといまも思っています。しかし私は内心、なぜか無性に悔しく、腹立たしい思いがして、その反動でスタートさせたのがCOMLの「病院探検隊」なのですから、むしろ活動のきっかけが与えられたと感謝すべきなのかもしれません。
 その日から15年のときが流れ、今回は公式に見直し検討会の委員の一人として招聘され、患者の立場としての意見・感想を求められたことに改めて時代の変化を感じさせられます。検討会の議論のなかで審査そのものの質向上の要望はもちろん、私たち患者の眼に映る機構の存在や役割の不明瞭さ、なかでも活動実態のわかりにくさ、国民・患者への説明不足や情報提供不足など、あえて機構への厳しい意見も伝え、今後への期待を込めた数々の提言をしました。
 昨年9月から今年3月まで、全6回にわたって議論された内容が「病院機能評価方法の見直しに係る報告書」としてまとめられ、近々、機構のホームベージに公表されます。ご興味・ご関心のある方はぜひご覧ください。