辻本好子のうちでのこづち

No.166

(会報誌 2009年1月15日号 No.221 掲載)

2009年も「賢い患者になりましょう」を合言葉に

お役所仕事に企業が動くか…?

 大阪府の「救急医療のあり方検討会」のメンバーとして、啓発事業企画提案の選定作業の議論に参加。5社のプレゼンテ一ションの中身がオチャラケのウケ狙いで「あまりにも発想が貧困すぎる」と、全員の委員から待ったがかかって中断していた件。ようやく、一応の決着に至りました。結局のところ折衷案ということで、各委員から出された意見を事務局が取りまとめ、すでに提出されている企画に新たに組み込むことを条件に1社を選定しました。
 提案として出されている企画内容とは、インターネットのサイトを立ちあげて「救急医療の利用にあたっての心得」の情報提供、その内容をDVDにして各地域の公共施設などで情報を流すこと。さらには、ステッカーやパンフレットといった啓発グッズなどを作成し、広く府民に呼びかける取り組みなど、残念ながら何一つ目新しさを感じられない内容だったのです。
 とりあえず救急患者の増える年末年始の対応ということで、インターネットの「大阪救急ナビ」で最低限の情報を掲載した暫定版を立ちあげ、今後、順次内容を充実させる作業をおこなっていくとのこと。改めて、いったん予算を確保し、やると決めたことは何が何でも計画通りに事を進めなければならないとするお役所仕事の一端を垣間見る思いです。
 ただ懸念するのは、企業が看板を背負って提案した企画内容とは異なる要求をされて、はたしてすんなりと受け入れられるものなのかどうか。企業は企業なりのプライドもあるだろうし、利益をあげることが至上命題、提示された予算内で提案した内容でもあったはず。いわゆる競争原理の働いた5社のプレゼンテーションで勝ち抜くためのいわば予算ギリギリの内容だったとすれば、委員からの新たな提案を簡単に受け入れるとは考え難い気もします。
 もちろん私たち委員も待ったをかけてまで批判した以上は、企業の発想にない医療現場や患者の視点からの具体的な提案をするという責任と覚悟が求められます。企業と行政、そしてさまざまな立場が参加する第三者委員会が三つ巴になって、はたしてどこまで踏ん張れるか、今後試されることにもなるだろうと思っています。

変化の兆しを大きな力に

 医療におけるパターナリズム(父権性温情主義)が否定されはじめた頃から、国をはじめ最小単位の地域行政の隅々に至るまで、情報公開の名のもと一切の隠しごとはタブーとなりました。私たちのようなNPO法人においても会計はもちろん、次年度の活動予定までガラス張りであらねばならないと、厳しく要求される時代になりました。パターナリズムというのは「悪いようにはしないから俺に任せておけばいい」と、頑固おやじが有無を言わせず自分の考えを押し通し、子どもはお任せするしかない、ふた昔前まで当たり前だった父と子の関係。COMLが活動をスタートした18年前は医療はもちろん、地域行政でもそれが当たり前だったのです。
 ところが時代は大きく変わりました。患者にも住民にもお任せと甘えは許されず、自己責任が問われるようになったのです。つまりそれまでの上意下達にピリオドが打たれ、知らないでいたほうが気楽だったのかもしれない、いわば隠されていた実情が情報開示によって露呈。お任せしていた時代には考えられなかったようなほころびや問題、課題が突きつけられるようにもなりました。事の起こりを、事の流れを知れば知るほど、かかわればかかわるほど、当然ながら面倒なことにも巻き込まれていくわけです。しかし、お任せして、結果が悪けりゃ後から文句を言い、他者を批判してさえいればよかった時代にはもう戻れません。
 行政や経済の問題もさることながら、たとえば私たちがテーマとする医療においても問題が山積。今年は今まで以上に厳しく患者・市民が本気になって「自立・成熟」の道を歩み出さねばならない時代の転換期に立たされています。決して諦めるわけにも投げ出すわけにもいきません。やはり希望を持って前進するしかありません。
 ただ昨秋あたりから、あちこちで医療が変わろうとする“変化の兆し”を感じてきました。前回も紹介した兵庫県立柏原病院の小児科を守る会のお母さんたちの活動や都立墨東病院で亡くなった妊婦さんのご遺族の冷静な対応、さらに身近な例でいえばCOMLへの電話相談の件数が減少してきたこと(ただそれだけで、患者の不信感や悩みが減ったわけではないでしょうが)、滋賀や青森で始まった県行政や医師会の共催で「安心できる地域医療を築こう!」と住民・患者に協働参加を呼びかけるイベント、また岡山では県の病院協会が立ちあがって地域住民に協働を働きかける大々的な初の催しを、さらには鹿児島での5年連続して医師会が県民に「賢い患者になってほしい」という医療者側のメッセージを届ける取り組みなど。及ばずながら、これらの催しに多少のかかわりを持たせていただくことを通して、希望をつなぎ、ブレることなくCOMLの想いを追求し続けていくことの大切さを教えられてもいます。
 変化の兆しに大きな感動をいただいた2008年。そして、2009年の年明け、COMLの合言葉「賢い患者になりましょう!」のメッセージを全国津々浦々、一人でも多くの人々に届け、患者と医療者が歩み寄り「この人に出会えてよかったりと互いに思える協働関係づくりにこれまで以上に精力的に取り組んで参る覚悟です。どうかご支援、ご指導のほど、本年もよろしくお願いいたします。