辻本好子のうちでのこづち

No.030

(会報誌 1997年6月15日号 No.82 掲載)

“一寸の虫にも五分の魂”というけれど……

 かねてより医療には、封建性、専門性、密室性の大きな壁がそそり立っていると言われてきました。しかし時代は、パターナリズム(父権性温情主義)医療からインフォームド・コンセントヘと大きく流れが変わろうとしているなか、「いまどきほんとうにそんな病院があるの? そんな医者がいるの?」と耳を疑う、まるでTVの『水戸黄門』に登場する悪徳代官のような病院が大阪で摘発されました。

悪徳医療と甘い行政監視

 弱者救済という美名のもとの金儲け主義を絵に書いたような、とんでもない医療。ドクターやナース数の虚偽報告と診療報酬の不正請求、患者への暴行、不当な隔離治療や退院制限、診察もなしに数カ月先までの点滴や投薬、検査の指示など。ちなみに過去2年半の診療報酬不正請求総額は、なんと20億円にもなるという、安田系病院はまさしく“悪の医療サンプル”そのもの。聞けば聞くほどに呆れるばかり、開いた口がふさがりません。
 昨日や今日に始まったわけでもないのに、どうしていままで見逃されてきたのか。聞くところによれば、数年前から元職員が府庁に不正の内部告発をしたり保健所にも届けたりしていたとか。それなのに府は、今になって「監視が甘かった」(ったく、モォー!!)。たしかに大阪府の場合でいえば、594ある病院に対して医療監視を担当する保健所は54ヵ所。府の福祉部指導医官、医療事務指導官が数名では「調査体制に限界がある」というのもうなずける話。改めて官主導、行政依存の限界をつきつけられる思いです。
 しかし安田系病院の問題は“氷山の一角”。内容こそ違え、患者を苦しめている問題はほかにもたくさんあります。例えば「つけ届け」の問題、いわゆるドクターヘの謝礼です。「同室の患者さんから50万円が相場と言われたが、手術の前に渡すべきか、術後がいいか?」という相談や、あろうことか「婦長さんからそれとなく請求された」というとんでもない話もCOMLには届きます。

恐喝まがいの“陰の医療費”要求

 夫(43歳)が心臓病で入院。入院したときの相場と言われ、主治医に20万円を渡したところ「あと50万円用意して欲しい。私は酒は飲まぬがカニが好き」と自宅住所のメモを渡され、藁をもすがる思いでカニと50万円を持って訪問。主治医の妻から「ご主人の手術はうまくいきますよ」と励まされたとか。手術が決まったとき主治医から「執刀は有名な教授を紹介しよう。紹介料として私に50万円、教授には300万円。最高の医療を受けて生き続けるためには、教授の執刀でなければどうなるかわからない」。ところが小さな子どもが4人いて、もうこれ以上貯金を崩せない。夫が助かるためならと、言われるままに120万円も払ってきた自分も情けないが、噂によれば主治医はアメリカの学会に出席して博士号を取るために必死でお金を集めているとか。夫のいのちは助けたい……「こんなときにはどうしたらいいのでしょうか?」と、行き場を失った相談です。
 これは、まさしく恐喝です。今にも泣きだしそうな妻の言葉からは、まったくの作り話とも思えません。過去にも同じような相談を聞いているだけに、水面下にはウヨウヨとありそうな話。ニワトリが先かタマゴが先かの論法でいえば、まずは患者側が意識を変えることが先決。とはいえ「いのち」に直結するだけに他人がどうこういえる話でもありません。ただ“陰の医療費”が大手を振ってうごめく悪習の温床を黙って放置していていいはずはありません。安田系病院の二の舞にせぬため、行政にも頼れない私たち市民・患者は一体どうすればいいのでしょうか。残念ながらCOMLの力は、哀しいほどに微力です。