辻本好子のうちでのこづち

No.136

(会報誌 2006年7月15日号 No.191 掲載)

私と乳がん㊿

迷いつつも服用を始めたホルモン剤

 手術、抗がん剤と放射線の治療が終わって、次に私を待っていたのはホルモン療法です。

女性ホルモンで増殖するタイプのがん

 9ヵ月前(2002年4月末)におこなわれた手術の後で、今後の治療計画の説明がありました。そのとき「あなたのようにわきの下のリンパ節に転移があって、がんの悪性度も高い場合、手術だけなら10年以内に転移する確率は38%、つまり3人に1人の割合。抗がん剤を使えば3.6人に1人となり、さらにホルモン剤を飲むことで……」と、すでにホルモン療法の示唆を受けていました。
 手術で摘出した病巣の病理結果からも、私のがん細胞は女性ホルモンによって増殖するタイプ(ホルモン受容体陽性)で、ホルモン療法が有効とされています。乳がん患者のほぼ6〜7割がこのタイプだとも言われ、長期間の服用で高い効果が期待でき、転移・再発を抑えることが目的の予防的な治療です。点滴や注射の方法もあるようですが、私にはタモキシフェン(商品名:ノルバデックス)の5年間服用が提示されていました。

とりあえず始めてみよう

 2003年1月24日、年が明けて初めての外来受診で血液検査と胸部レントゲン検査を受け、放射線科の外来受診と併せて2月7日に検査結果の説明を受けました。すべて「異常なし」という説明のあと、いよいよホルモン治療を選択するかどうかを決めなければなりません。もちろん自分で安心し納得して決めるためには情報が必要と、それまでに周りの協力を得ながらホルモン療法に関する多くの文献に目を通していました。しかし、いくら多くの情報を入手したとしても、複数ある情報をどのように受け止め、どのように考え、そして、どのように選択すればいいのか、やっぱり私は最終的には主治医と相談して決めたいと思いました。
 ホルモン剤を5年間飲んだ人と、飲まなかった人の15年後を調べた臨床試験では、再発率に12%、死亡率に9%の優位差が明らかになっているとのことや、これまでに欧米で40年以上使われてきた実績のある薬だということは、どの文献にも書かれていました。そして、化学療法に比べれば副作用は少ないといわれていますが、まったくないというわけでもないようです。子宮体がんになりやすいという欧米のデータが発表されているだけに、やはり第一のリスクとして引き受けざるを得ません。主治医からは、年一度の子宮がん検診が必要だということと、ほてりや動悸といった更年期障害のような症状を起こす場合もあり、まれには吐き気もあるなど、頻度は少ないとはいえ可能性のある副作用情報が羅列されました。
 改めて、やはりそれなりの覚悟が必要であることを自覚させられました。なにしろ、すでに嫌というほど“効果は不確実だが、副作用は確実”という抗がん剤を体験した直後です。無用な副作用に身をさらす危険に最後まで多少の不安がぬぐいきれずにいました。しかし、いつまでも逡巡しているわけにも行きません。誰かが決めてくれるわけでもなし、ホルモン剤を服用するか、しないかの決断は、この日に迫られていました。
 そこで自分なりの妥協案ということで、<とりあえず飲んでみよう。服用の途中で何かあれば、そのときもう一度考えることにしよう!>と決心し、いよいよ「ノルバデックス」の服用がスタートしました。

髪の復活はおしゃれなベリーショート

ベリーショートの辻本好子 ホルモン剤の治療が始まってまもなく、化学療法からちょうど半年後にあたるこの頃から、見事なまでに脱毛した髪の毛に少しずつ復活の兆しが現れてきました。頭皮に寄り添うようにカールした、柔らかい産毛のような髪が少しずつ伸びてきたのです。黒というより、ブリーチでもしたような明るい茶色がかった色合いで、少しずつ伸びてくると結構おしゃれな感じになってきました。もともと短めのヘアスタイルが好きで、ここ10年来ずっとショートカットで通してきました。しかし、さすがにここまで思い切ったベリーショートにしたことはありません。よほど勇気がないと決心できない、それほどのベリーショートスタイルです。
 ところが、洗髪は少量のシャンプーでグシュグシュッと洗って、サーッとシャワーで洗い流せば終わり。ドライヤーで乾かす手間もいらなければ、風が吹いても髪の乱れを気にする必要もありません。ベリーショートがこんなにも手入れの楽なヘアスタイルだったとは……。すっかり気に入って、脱毛から復活した喜びと「いのち」や「からだ」に潜んでいる“生きる力”に感謝するとともに、しばらくの間はおしゃれまで楽しむような気分でした。

※これは2003年の体験です。