辻本好子のうちでのこづち

No.089

(会報誌 2002年8月15日号 No.144 掲載)

私と乳がん③

セカンドオピニオン

 ドクターとのアイコンタクトに成功してすぐ、6年前に受診したこととセカンドオピニオンを求めての受診である旨、さらにはこれまでの経過を端的に伝えました。
 前医からの紹介状と借り出してきたマンモグラフィのレントゲン写真にしばらく見入った後、触診をすませたドクターは、「(前医の)診断どおりだと思う」「大きさは1.2cm位で早期がん(Ⅰ期)だろう」との判断。しかし、ここでお任せするわけには行きません。誰のものでもない、私の“もちもの”である「乳がん」の顔つきも性質もわからないまま手術するなんて、絶対に納得できない。そんな気持ちで求めたはずのセカンドオピニオン。正直にその気持ちを伝え、さらなる精密検査を希望しました。ならば納得のためにということで、まずは針を刺す細胞診よりも広い範囲の組織を採取する「組織診」と、造影剤による「MRI検査」のメニューが示されました。
 組織診はピストルのような形の器具で、先がスクリューのような少し太めの針。針生検より確率の高い診断が可能とのことで、早速その場で局所麻酔の注射が打たれて実施。そこまではじつにスムーズに進んだのですが、院内のMRIは非常に込み合っているということで、「急ぐ場合は外部のクリニックに自分で予約を入れるシステム」とのこと。すでにこの時点で、手術は回避できないと覚悟もし、できれば仕事の予定を入れていない大型連休を術後のケアに当てたい——。となれば、ともかく急がねば——。
 セカンドオピニオンを求めた初診外来も終了間近。そこで、いきなり「手術となれば、こちらでお願いしたい」意向を伝えると、一気呵成に話は進み、ならば今日中にということで、術前検査用紙(採血、検尿、心電図、肺活量、止血)が渡され、外来受付で入院予約を済ませておくようにとの指示。術後のケアを大型連休に当てるとして逆算すると、少なくとも手術は4月24、5日頃。ところが22日の月曜日に弘前大学医学部附属病院の研修医オリエンテーションの予定があって、これは変更することはできない。いくら在院日数がどんどん短縮化する傾向にあるとはいえ、とりあえず「乳がん」レベルの手術となれば、入院したその日の手術というのは、いくらなんでも無理な相談。やはり前日に入院するしかない——。
 頭の中でグルグルとスケジュールがめまぐるしく行き交うなかで、いきなり「4月25日の手術ということは可能でしょうか?」と切り込むと、ドクターもギョッとした表情。「エッ、どうして?」と切り返され、講演スケジュールなど“私の事情”を説明させてもらいました。

諦めないこと!!

 患者一人ひとりが「どういう医療を受けたいか?」という基本的かつ重大な問題の“その前”に、じつは社会的な存在としての個々の事情や家庭状況の違いなど、実に個別的な事情をそれぞれが抱えているものです。しかし、これまでの医療現場でのやりとりにおいて病院側の都合が優先されることはあっても、患者側の個別事情は、むしろ患者側の遠慮という意識で、押し殺してきたように思います。それなのに電話相談には「病院のベルトコンベアに乗せられてしまった」という不平・不満が嫌というほど届く。それも実状です。
 それだけに、ここは踏ん張りどころ。無理を承知で、ともかく私の事情にもちゃんと耳を傾けて欲しいと勇気を出しました。しかし、「入院は看護部が決めること」と、あっけない返事。結局、ドクターからの確約は得られませんでした。
 診察室を出て、すぐに外来受付で「23日入院、25日手術の希望」を伝えました。ナースからは入院案内書が手渡され、「入院の2〜3日前に連絡を入れる」という説明以外、不安に寄り添うような言葉がけもないまま、携帯電話などの連絡先を書類に記入して事務作業が終了。そして、指示されたすべての検査が終わったのは夕方の5時過ぎでした。
 検査の途中、指定のクリニックに電話をしてMRI検査の予約の交渉。これまた「めちゃめちゃ混んでいる」状況とのこと。明日から2週間、連日ぎっしり予定がつまっていることと、そもそも大阪にいる日は11日だけ。組織診の結果が出るのが17日で、その日が次回の診察予約日。なんとしても、それまでにMRI検査を受けねばならない。ここでも、電話の向こうの受付スタッフに真剣に事情を打ち明け、粘り強く交渉しました。そしてラッキーにも3日後、4月11日の午前の隙間に——、ということで、予約にこぎつけることができました。何度も何度も「ありがとうございました」と繰り返すと、「かえって恐縮です」といわれてしまいました。

ともかく諦めないこと!

 もちろん、無理難題のごり押しはよくありません。でも、まずは自分の意向をしっかり伝えること。そして、相手の都合や言い分をしっかりと受け止めたうえで、さらに十分な“やりとり”をする。結局、交渉するということは、人と人の間でおこなう作業であり、気持ちの問題です。精—杯の誠意を尽くすことが基本。やっぱりコミュニケーションが大切でした。