辻本好子のうちでのこづち
No.072
(会報誌 2001年2月15日号 No.126 掲載)
“患者の視点”を取り入れた医療改革のスタート
倫理委員会に非専門家の加入が義務づけられて
事故やミスばかりか、相も変わらぬ贈収賄など、医療現場の不祥事が連日マスコミを賑わしています。患者の不信感は止めようもありません。ほんの一昔前、裁判にかかわることなど、まさにお家の一大事でした。ところが最近の電話相談の、じつに4分の1が医療不信に陥った声です。この30年で医療訴訟は6倍に増えています。数年前まで全国に1万7千人ほどしかいなかった弁護士が2万人に急増、近い将来に2〜3倍、つまり5〜6万人に増やそうという構想が急ピッチで進められようとしています。患者の権利意識の向上と弁護士の急増で、医療訴訟は今後ますます雪だるま式に増えることは火を見るより明らかでしょう。
患者中心の医療が求められる中で、国立大学医学部附属病院の倫理委員会に非専門家の立場である市民を加える新たな規定が、昨秋、制定されました。及ばずながら私も、名古屋大学医学部附属病院倫理委員会の末席に参加しています。申請の多くは、遺伝子診断や治療といった最先端技術を駆使する実験医療。緊張の面持ちでコの字型に居並ぶ倫理委員の前で審議申請するドクターたちも、これまで以上に“わかりやすい説明”が必要になったというわけです。
倫理委員会の承諾を得て、さらに実施計画書が提出されますが、その後には患者にくだんの検査や治療が「勧められる」という流れが待っています。それだけに申請者の専門用語の一つひとつにも、「それでは患者は理解できません」「もっと、わかりやすく説明してください」「学術資料もわかりやすく翻訳して患者さんに添えてください」と要求することを役割と任じ、精一杯、踏ん張っています。おそらく申請者のドクターたちは、これまで以上に「やりにくくなった」とぼやいているに違いありません。これでまた“怖いオバサン”の異名が、どんどん一人歩きすることになりそうですが、医療現場にインフォームド・コンセントをしっかり根づかせるもう一つの“手がかり”として、しっかり取り組みたいと思っています。
権利章典に“患者の責任”項目の試案
昨年スタートした横浜市衛生局の『患者の安全管理に関する評価委員会』に加え、年明け早々にスタートした東京都衛生局の『都立病院患者権利章典検討委員会』にも委員として参加。東京都の場合、9名の構成メンバーのうち3名だけが医療者、すなわちあとは患者の立場が名を連ねています。14の都立病院が「患者の基本的な地位や権利に関する事項を明確にし、都民に広くアピールしていくことにより、患者中心の医療をより推進するとともに、医療サービスの向上に向けて、病院職員のさらなる意識改革を図ること」を目的とし、半年後の6月末を都知事への報告のめどとして、毎月の議論が予定されています。
患者の権利擁護という視点だけでなく、患者の責任についての検討項目が試案としてあげられ、患者の主体的な医療参加を図ろうという方向性がはっきりと打ち出されています。施設内への掲示・表示はもちろん、わかりやすいパンフレットなどの発行も予定され、都民の意識啓発が計画されています。全米病院協会が「患者権利章典」を採択したのが1973年。じつに30年遅れの「ようやく……」の感はぬぐえませんが、21世紀を迎えた時代の変化の現われでしょう。
果たして、患者の「責任」か、はたまた「義務」にすべきか。そして、患者が引き受けるべき問題が何であるかなど。ぜひとも読者の皆様のご意見をお聞かせいただきたいと思っています。