辻本好子のうちでのこづち

No.071

(会報誌 2001年1月15日号 No.125 掲載)

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 ここは街角にある洒落たカフェ。肩こり、頭痛、ストレスなどの症状に合わせて調合した、薫り高いハーブティを飲ませてくれる店。スッキリ系の好みのメニューボタンを押して、コーナーに設置されているカードを手にカウンターに座る。ロボットアームが差し出したカップを片手に、手元のカードの質問事項につぎつぎと穴をあけていく。店には自動販売機のような機械が何台も並んでいて、パンチカードを差し込んで待つこと2〜3分。最初に請求金額が表示され、クレジットカードの暗証番号を押す。そして、しばらくするとカードと薬のパッケージがコロンと出てきた。処方内容が変わっていたので詳しい情報が欲しいと、別の機械にカードを入れる。情報提供料と表示された金額は結構高い。再び暗証番号を押して、出てきた数枚の病状と薬に関する説明書に目を通すと専門用語が羅列されている。これを翻訳機にかけると、さらに支払いがかさむので自分で調べることにする。いつもは自宅のコンピューターからアクセスしているが、薬は翌日しか届かない。今日はたまたま街に出たついでに「医療」を買おうと、この店に寄ったというわけ——。
 じつは2年前に弱った腎臓を新しく付け替える臓器移植手術を受けた。入院はたったの一週間。退院後しばらくは、ハイテク工場のような病院に隣接するホテルに宿泊して外来通院。人工腎臓の値段は5年分の収入と同じくらいの金額だったが、幸い以前から掛けていた保険が利用できて大助かり。今日の薬はその後のメンテナンス。しかし、どうしても、ときどき強い不安に襲われ、そんなときはCOMLという電話相談でじっくりと話を聴いてもらっている——。

21世紀の幕開け!! あけましておめでとうございます

 昨年、日本の医療展望を語るある学会のシンポジウムで、病院経営者や厚生省関係者から「現在120万床ある病院のベッド数を将来的には半分以下の50万床レベルに減らさないと医療が崩壊する」という話が出ました。だから医療にも競争原理を導入して病院の自然淘汰を図るしかない——。そんな話が心の奥に巣食っていたからか、私が見た初夢は、どこを探しても温かい人間関係など浮んでこない殺伐としたハイテク医療。IT革命に乗っ取られてしまった医療の姿でした。
 10年前に欧米から直輸入した「インフォームド・コンセント」はブカブカの借り着。無理やりのお仕着せでなんとか言葉は定着したものの、中身のお寒い状況は一向に変わりません。日進月歩の医療、患者と医療者の世代交代も始まっています。若いドクターのなかには機関銃のように一方的な説明をしたあとで「ここまでが私の役割」「あとは、あなたが決めること」と、まるで説明マシーンのような人まで現れています。その一方には、専門家の意見は正しいと信じ込んで、コンピューターで検索した山ほどの情報に溺れそうになりながら電話相談で正解を求める。まったく自分で判断しようとしない若い世代が次に控えています。
 医療も看護も人と人の間でおこなう行為。人間関係であるからこそ、相性という問題を抜きに語れないのです。21世紀は「ほんもの」が求められる時代。患者が求める「ほんものの医療」を求めて、今年も皆様とご一緒に考え、行動したいと思います。本年もどうかよろしくお願いいたします。