辻本好子のうちでのこづち
No.052
(会報誌 1999年4月15日号 No.104 掲載)
偏らない姿勢を大切に
「賛成しない=反対」?
これまでCOMLは、カルテ開示の法制化について決して反対はしていませんが、積極的な賛成もしてきませんでした。しかし「賛成しないことは反対していることと同様」という論理の展開になってしまいがちです。患者が拳を挙げて法制化を叫べば現場でどんな混乱が起きるか。カルテ開示は、決して対立して“勝ち取る”問題ではありません。開示するために、いま何か必要かを考えることこそ大切なのです。
あるカルテ開示のシンポジウムでのこと。「医療情報の開示は時代の流れ。これからは情報を受ける患者が何を学び、どんな責務を引き受けるかを考えることが必要」という基本的な発言をしたあとのディスカッションの場で。司会者から「たしかCOMLは法制化は不要とおっしゃっていたようですが……」。誘導のような質問に、私は思わず「個人的には(法制化)は賛成です。なぜなら、法制化すれば必ず環境整備が始まると思っていますから……」と、日頃の自分の考えをそのまま口にしてしまいました。
すぐにCOMLの“偏らない姿勢”を大切にしなければ……と、あわてて発言を修正しようと「ただ、インフォームド・コンセントを努力している協力医から(法制化について)『頼むヨ、最後のお願いだから』という悲鳴に近い本音がCOMLに届きます……」と、ここで発言を打ち切られて、別のパネリストに質問が移りました。妙に医者をかばうような中途半端な話になって、落ち込んでしまいました。
批判や攻撃をしない“新しい姿勢”で
じつは……開催日の前夜。事務所のFAXに「COMLは医師会のスパイのようなひどい団体だそうなので、当日は適当にあしらうつもり」と書かれた怪文書が届き、何とインターネットのメーリングリストにまで流れたらしいのですが、たしかに当日の壇上には、そんな不思議な空気が漂っていました。そんな影響もあったのか、情けないほど冷静さを失った私は司会者の言葉に誘われるままに「法制化賛成」という持論を述べてしまったというわけです。
COMLの活動の基本は患者は一人ひとり、それぞれが「受けたいと思っている医療の実現」を支援すること。そして、医療現場に「患者の個別性の尊重」を訴えることです。患者の気持ちは人それぞれ。それだけに患者と“ひとくくり”に扱われたくない。そうした患者の気持ちを機会あるごとに、電話相談に届いた「なまの声」を代弁することでドクターやナースに訴え続けてきました。だからこそ医療不祥事の続発や、脳死・臓器移植などの問題が浮上するたびに、マスコミから「患者の立場として……」というコメントを求められても「患者はこう考えるもの」と、ひとくくりにするような発言を絶対にしないように努めてきました。もちろん、そういうCOMLの姿勢に対して「医者寄り」「甘い」「日和っている」と厳しく批判されたり、ときには信じられないような誹諦中傷を浴びて、唖然とすることも多々あります。
けれども、やっぱり、批判や攻撃をするだけではない「新しい姿勢」のグループということでCOMLを評価し、支持・支援する輪の広がりが、これまでの9年間を支え続けてくださったのです。これからもCOMLは“偏らない”ことをモットーにしながら、さらに患者の自立や意識改革の支援活動を努力したいと思います。