辻本好子のうちでのこづち
No.053
(会報誌 1999年5月15日号 No.105 掲載)
医師国家試験改善でコミュニケーション重視
さらに厳しくなる“ドクターの条件”
2001年の医師国家試験から、これまでの知識偏重型が大幅に見直されることになりました。
厚生省の医師国家試験改善検討委員会が、4月15日に報告をまとめ、患者とのコミュニケーション能力や患者を全体として診る能力を重視し、将来的には模擬患者を使った実技試験を導入するという方向性を示しました。患者中心の医療を実践することと総合診断能力の必要性は、言うまでもなくドクターに対してずっと患者が願いつづけてきたことで、“ようやく”たどり着けたということでしょうか。
じつはCOMLの活動として模索している「模擬患者(SP)を使った医療者とのコミュニケーショントレーニング」が、この春で7年目を迎えました。たしか活動2年目くらいのときだったと思います。先述の委員会メンバーのお一人から「4〜5年後までに300人ほどのSPを養成できないか?」という、打診を受けたことがあります。それが今回の国試改革の方向性を見据えた依頼だったことを思うと、今回の見直し作業はじつに5年以上前から始まっていたことになるわけです。
もちろん患者と向き合って“やりとり”のできるドクターのコミュニケーション能力は大切です。が、しかし、だからといって、ただ愛想がよければいいかというと、決してそうではありません。高い医療技術を身につけ、人間としてどこまで信頼できる人であるか、そうした基本的な患者の要求を満たした上で、さらに要求される必要条件なのです。これから国試を受ける医学生諸君にとっては、ますます厳しくなるばかり。ほんとうに人から尊敬されるプロフェッショナルになるということは、じつにじつに大変なことです。
たしかにドクターは、他者のいのち・からだ・人生の問題のかなり深い部分にまで関わらざるを得ない存在。患者の気持ちに寄り添い、個別性を尊重できる人物であるかどうか、とりあえず国が責任を持って適性を選別するのが医師国家試験。選別された後の自己責任も当然に重く、幅広い人間性や技術探求の精神が限りなく求められる宿命におかれます。考えてみればこれまで国が、ドクターのコミュニケーション能力を試してこなかったことの方が不思議といえば不思議。
ただ今回の報告を読みながら、国試のあり方を変えただけで、ほんとうに医療の質や医者の意識が変わるのだろうかという疑問も感じます。研修制度はすでに見直され、そして国試の方向性が定まった次は、いよいよ医学部入試と医学教育、さらには生涯教育の見直しでしょう。
医学教育に患者の声を届けるSP活動
今年も医師国家試験合格者7309人が、4月22日を機に各地で新たなドクター人生をスタートしています。もちろん彼らは国家試験での模擬診察“洗礼”は受けてはいませんが、すでに講義や自主セミナーなどで経験ずみという人も少なくありません。先日もある研修医指定病院で話をしたあと、「COMLのSPを受けました。とても感動的でためになりました」と声をかけてくれた研修医に出会い、息子の晴れ姿を見る母親のような気持ちで思わず胸キュン。いやはや教育に関われることって、ほんとうに嬉しいことです。
現在、大阪と東京のほか、岐阜、静岡、福岡、札幌などでも活動の模索が始まろうとしています。7年前、SP活動のきっかけをCOMLに与え、種を蒔いてくださった中川米造先生は今は亡く、SPの活躍を喜んでいただけないのが残念ですが今後ますます必要性は高まるでしょう。市民・患者が医学教育に参画し、ドクターの卵たちに思いを伝えるSP活動の広がりの中にもCOMLの思いの原点を伝えつづけてゆきたいと思います。