辻本好子のうちでのこづち

No.050

(会報誌 1999年2月15日号 No.102 掲載)

“賢い患者”になるための学校教育を

 昨年1年間、日経メディカル社が主催する「21世紀の医療システムを考える会」に参加し、年頭には毎月議論してきた内容をまとめた『患者主体の医療改革の提言』が発表されました。
 議論したメンバーは、地域高齢医療に取り組む病院長に先端医療の経営者でもある病院理事長、そして大学院で医療システム学を研究する教授といった立場と役割を異にするドクター3名。そこに製薬会社の社長と市民の立場ということで私も同席。つごう5人が毎月1回、早朝7:30から2〜3時間にわたって丁丁発止、患者一人ひとりの生き方を尊重することと、患者の安心と納得を尊重する医療とは……をテーマに語り合いました。
 サブテーマは「21世紀の医療への提言」ということで立場を越え、いまそれぞれが何をすべきかの方向性を探り合う中で、日頃のCOMLの主張や活動もおおいに評価を得たことと、以前から私の心を大きく捉えていた“医療に関する初等・中等教育の充実の必要性”が提言に盛り込まれたことが、何よりの成果でした。

患者教育の機会提供は大人の責務

 診断名の“レッテル”が貼られた瞬間、突然、患者の立場に立たされる私たち。強い不安と恐怖にかられながら、知識や情報の絶対的優位に立つ専門家と向き合うとなれば、主体性などどこへやら……。その結果「お任せ」になってしまうという多くの現実を日々電話相談で聞くたびに、消費者教育の一環として賢い患者になるための学校教育が必要という思いをずっと抱きつづけてきました。
 2年前、関東のある中学校でインフォームド・コンセントや患者の自己決定について話をしたことがあります。そのとき、彼らと同じ中学3年で白血病になった女の子の話を紹介し、「もし自分がその立場だったら?」ということでグループ討議をしてもらいました。一人の傍観者も出ない熱気の中であれこれ意見が飛び交い、茶髪のワルガキ風の男子生徒が「自分の病気のことは、ちゃんと自分も知っていたい」と、自分の考えを堂々と発表してくれた姿が今も目に焼きついています。
 さらに今年もまた、大阪市立栄養専門学校の栄養士のタマゴたちにインフォームド・コンセントをテーマに計360分(90分×4回)の話をしました。最後のレポートで、彼らもそれぞれの真剣な思いを綴ってくれました。「インフォームド・コンセントのことを聞いたのは初めて」「自分の人生を考えるすべての場面でとても大切なこと」「公務員試験の二次審査の集団討論のテーマにも出た」といった感想。また半月板損傷や腎炎、歯科治療など、20代そこそこでも多くの患者体験があり、あるいは身内をがんで亡くした経験などから「あのとき、もっと遠慮なく質問すればよかった」「医者も人間。敵対するのではなく、まずは患者が変わることが必要」とコミュニケーションの重要性を認識したうえで、この先、もし自分や身内が患者になったら「どうしたいか?」を本当に真剣に考えてくれました。

 残念ながら、現在のCOMLの力量では文部省や学校教育の現場にまで“患者教育の必要性”を働きかける術を持っていません。それが今回の提言の中に盛り込まれたことで、教育現場にも届くことを期待したいと思っています。文部省も最近動き始めたと聞いています。21世紀の担い手である若者たちが、まずは自分の「いのち」や「からだ」のことを真剣に考えてみること。そこから他者を大切にする気持ちが芽生えてくるのではないでしょうか。いま子どもたちに、そうした機会を提供することが、私たち大人の責務だと思います。