辻本好子のうちでのこづち
No.032
(会報誌 1997年8月15日号 No.84 掲載)
「医者は神様、薬剤師は奴隷」に“!?”
さきの国会で可決された医療費の患者負担増。いよいよ9月からの施行ですが、8月末にはさらなる制度改革として与党3党の医療保険の抜本改革案がまとめられます。しかし、とりまとめの議論の中身は、またぞろ患者負担増案が先行している模様。どうして薬価や診療報酬の見直しに議論が及ばないのか不思議でなりません。与党に業界に医師会にと、医療を取り巻く大きな力関係がうごめくばかりで、やっぱり「患者が医療の主人公」なあ〜んてのは幻想でしかないのでしょうか?
法律で情報提供が義務づけられたものの
あっという間のレセプト開示。そして今年度末にはカルテ開示の方向性が示されるらしいと、すさまじい勢いの情報開示と規制緩和。ところが制度や仕組みが変わることについての十分なインフォームド・コンセントとなると「??」。相も変わらぬわかりにくい説明に加え、質問しようにも何処の誰に聞けばいいのかわからぬ状況。いつの間にやら“情報の海”に放り出されていた、ということにもなりかねません。情報の海を上手く泳ぐ術(すべ)を身につけて、溺れないように身を守るには「何かどう変わったのか、変わろうとしているのかを知ること」と、その変化の中で「自分がどう変わるのか」を考えておくことが重要なのではないでしょうか。
ところで会報誌の前号で、この4月に薬事法・薬剤師法が改定され、患者への薬剤情報提供が薬剤師に義務づけられたことについて触れています。これまでは、患者から薬について質問されたら「先生に聞いてください」と言っていればよかった薬剤師さん。これからは患者の質問に正面から向かい合わねばならなくなりました。法律が薬剤師のプロフェッショナルとしての本来業務をバックアップした、というわけです。ところが……。
時代の急激な変化に戸惑っているのは、どうやら患者だけではないようで、じつは法律で義務化された患者とのコミュニケーションをどうしたらいいかと薬剤師も同様とか。そんなわけもあってか最近よく、薬剤師の勉強会から「COMLに届く相談で、とくに薬に関する不安や不満を聞かせて欲しい」という声がかかり、多少の役割を果たすべくあちこち出掛けさせていただいております。
医者も人間なんだ!
先日、ある県単位でおこなわれた薬剤師会のシンポジウムで「患者の支援としてプロ性を発揮するために、まずは医者との関係改善を!」という私の発言に、会場から「医者は神様で薬剤師の私たちは奴隷。とても対等な関係にはなれない」と薬剤師さんからの反論がありました。正直、その言葉にはビックリしつつもナルホドナァーと妙に納得。しかし、やっぱり黙ってはいられません。「どうか明日と言わず今日から“医者が神様”と言うのは止めてください」と懇願。処方の“相互監視”も薬剤師の本来業務のはず。となれば、対等な人間関係でなくては決して果たし得ない役割です。
COMLの活動で医療者に「先生」と言わない私のこだわりも、じつは対等な人間関係、つまり卑屈にならない自分を支えるための手段。患者が少しでも賢くなって主体的医療参加を目指そうとしている矢先、身近な存在になったはずの薬剤師が目の前で医者に遠慮されたのでは、患者の自立の支援などとても期待できません。いまどき神様と崇められる医者も、結構、迷惑なのでは……?
総じて“権威に弱い”私たち。さらなる医療費の負担増にあえぎ、不平不満ばかり言ってるより、医学・医療についての限界性や不確実性、そして、何より医者も人間なんだ! という当たり前のことを“みんな”で冷静に見つめ直してみませんか。患者と医療者が共に歩む、新しい時代の関係づくりは今、スタートラインについたばかりです。