辻本好子のうちでのこづち
No.022
(会報誌 1996年10月15日号 No.74 掲載)
患者と医療者の新しい関係を目指して!!
バッジで思いを伝え合いましょう
インフォームド・コンセントを普及するシンボルマーク、人と人が向きあい語りあっているイメージをデザイン化した「バッジ」ができました。さあ、いよいよ、キャンペーンのスタートです!! 待ちに待った恋人がようやく目の前に現われた、そんな思いで私も毎日動く広告塔よろしく、胸につけて歩いています。講演でもさりげなくPR。品がいい、大きさもちょうどいい、色もステキとなかなかの好評を博しています。
まずは「あなた」の胸元に! そして、つぎは大好きな「あの人」ヘプレゼント!
抽象的な言葉ばかりがひとり歩き
「インフォームド・コンセント」という言葉や文字、ずいぶんあちこちで見たり聞いたりするようになってきました。医療関係の報道のなかでも(十分な説明にもとづく患者の同意)といった注釈つきでよく登場します。この訳では患者が不在と、医療者と患者それぞれの役割と責務を横に並べ協力者関係を表わす「説明と同意&理解と選択」をCOMLの解釈として提案しています。それでもやっぱり、どうしても抽象論になってしまって、なかなか納得できる具体的な手がかりがつかめません。なんといっても欧米の横文字文化の直輸入、カタカナ表示と直訳なだけにいまひとつピンときません。しかも少しずつ手垢にまみれ始めてきたようで、このまま放っておくわけにはいかないと落ち着かない気持ちになってきました。1990年、日本医師会が医療現場に普及すべしと宣言してから早7年。すでに言葉としても新鮮さを失い、文化論やら法律論やらと議論ばかりが飛び交い、医療現場からも「そろそろ飽きてきた」といった声も聞こえてきます。先日もパターナリズム(父権的恩情主義)の権化のような古いタイプのドクターから「君キミ、いまさら何を言っとるのか。私なんぞとっくの昔から、患者への説明は十分すぎるほどやっとるよ」と豪語され、オットット(チョット違うんだけどナ……それって押しつけでは??)と目が点になりそうでした。
お互いの願いをこめてバッジを誇りに
インフォームド・コンセント。言葉だけが勝手にひとり歩きし、具体策もないまま気がついたら消滅していた、では困ります。なんと言っても患者と医療者の関係、つまり医療を変えるキーワードなのですから。焦る気持ちも手伝って、ついに一大決心、2年以上温めつづけてきた構想をようやく「かたち」にしました。立場や役割の違いを越えた同じデザインのバッジ。それぞれの思いを一目瞭然に確認しあえる手立てとして、日本中の医療現場に広げ、患者と医療者の共有の「願いと誇り」にしたいと思います。
例えば、医療現場で向かいあったドクターの胸やナースのキャップにこのバッジがついていたら……。この人なら“患者の気持ち”を受け止めてくれる、「やりとり」することと「患者の自己決定」を大切にしてくれると、確かめることができます。つまり“そうでない人”との見分けができるわけです。どういう医療姿勢を持った人なのかが判断できて、「この人になら支援が求められる!」と思えたら、患者はどんなに安心して相談ができるでしょう。病気と向きあうなかで、辛さや哀しさを一緒に分け持ってくれるパートナー探しのために、これからは医療者の胸やキャップにバッジがついているかどうかを一つの手がかりにしたいと思います。
もちろん私たち患者もバッジをつけ、「あなたの説明を理解し、自分の医療を自分で選んで決める努力をします」のメッセージを伝える誇りを身につける努力をしたいと思います。