辻本好子のうちでのこづち
No.021
(会報誌 1996年9月15日号 No.73 掲載)
いよいよ医療保険制度に大幅な見直し
入院中の食事代1日600円が自己負担になったのは2年前。当時、支払う側の患者のブーイングよりも病院栄養士など現場のほうがかまびすしく、かなりの議論が交わされたものです。入院費用の一部として鎮座ましまし、この10月には760円に値上がり。改めてのニュース性もないためかマスコミにもほとんど登場せず、果たして皆さまのお耳に届いているでしょうか。じつはこの秋にも、来年度からの患者を取り巻く医療の周辺状況がつぎつぎと変わろうとしているのですが……。
ひっ迫している医療財政
戦後52年目を歩み出した日本はいま、あらゆる場面で制度や仕組みの見直しのときを迎え、私たちはその曲がり角に立たされています。96年以来、国民皆保険によって私たちは、「誰でも、いつでも、どこでも」一定水準以上の医療が受けられるという、普及・総合性の恩恵に浴してきました。しかし、その一方で“与えられる”ことに甘んじ、医療情報を知る権利もコスト意識を持つ義務も放棄してきました。その結果、過剰な薬漬けや検査漬け、果てはスパゲティ症候群という延命治療の横行に身を任せ、「拒むこと」もできぬまま国民総医療不信に陥りながらも世界一の長寿国を樹立、目前に迫った超高齢社会をどう支えるかが、いまや国をあげての深刻な議論に発展しています。
1994年度の国民医療費が26億円と過去最高。一人当たり20万円を超過し、とくに高齢者の医療費の割合が急増。試算によれば来年の夏には国庫財政は完全にパンク状態とか。各医療保険も軒並み赤字、国も地方自治体もこぞって財政危機に窮するなかで医療保険制度の大幅な見直しが始まっています。たとえば高齢患者の長期入院の解消、病床数、医師数の見直しといった医療提供システム、さらに医療保険の役割や構造の見直しに加えて患者負担、保険料負担、診療報酬体系の見直しなど。
1992年6月に発足した厚生大臣の諮問機関・医療制度審議会(メンバー44名)は、今年(96年)6月までに40回にわたる会合を開いて当面5~10年先の段階的な改革方策を検討しています(その一部は別表のとおり)。
次年度の<患者負担の見直し>として打ち出された1997年度ベースの粗い試算(医療保険審議会「今後の国民医療と医療保険制度のあり方について(第2次報告)」による)
・患者負担の見直し
①高齢者の患者負担の定率化(1割、2割)
②被用者本人の患者負担2割
③全ての若年者の患者負担2割、入院2割外来3割又は3割
④薬剤に係る患者負担3割又は5割
⑤①〜③について④と組み合わせた場合
高いアンテナを張って情報をキャッチ
ウーン、それにしてもたしかに難しくてわかりにくい問題、やっぱり「お任せ」するしかないのでしょうか。でも、しかし、何と言っても自己負担の増えた医療費を支払うのは患者です。支払う段になって、文句を言っても始まりません。これまでに何度も何度もこうしたお上の“おぼしめし”に甘んじながら、結果に対してだけ不平不満を言いつのってきた私たち。同じ失敗を繰り返さないために少しでも賢くなって、医療に何を期待するのかを真剣に考えなければならないと思います。
この問題は、決して患者の負担増だけに留まりません。患者たちの選ぶ目が本物になれば、医療機関にとっても生き残るべくして生き残る医療がどんなものであるかの死活問題。それを決めるのは私たち患者です。医療周辺にどんな問題が起きているのか、医療費として何にいくら払っているのか、そうした人切な情報をキャッチできる“高いアンテナ”を張りめぐらそうではありませんか。