辻本好子のうちでのこづち

No.172

(会報誌 2009年7月15日号 No.227 掲載)

若い医療者を守り育てましょう

 昨年の「安心と希望の医療確保ビジョン」会議でも、医療崩壊を防ぐ手立てのひとつは「地域の医療を地域の人々(患者)が守り、育てること!」と、厚生労働大臣に大口をたたいた私。だからこそ、私たち患者が賢くなること、そして、直接・間接的に地元の病院や医療者を守り、育て、支える役割を担うことが必要。そんな想いから“担い手”になるべく仲間を増やしたいと、6月から意欲的に取り組んでいるのが「医療で活躍するボランティア養成講座」。現在、前期として120人ほどの仲間が集い、まずは語り合う言葉と知識を共有しようと入門編と位置づけた医療周辺の実情を知ることからスタート。講座終了後には現状認識の一致を目指したいと願っています。熱心に、そして、楽しそうに参加してくださる仲間が増え、事務所にイキイキパワーが溢れています。
 そんな折、以前からどうしても自分の目で確かめたかった千葉の活動に参加、その日のイベントの仲間に加わり、目を見張る感動と新たなエネルギーをいただいてまいりました。

千葉県立東金病院のとりくみ

 東京から1時間半ほどかけて訪れた千葉県立東金病院(※)の玄関ホールで、“ひとり病院探検隊”よろしく入り口に掲げられている掲示物などを眺めているそのときでした。背後からいきなり「辻本さんですね! ようこそ!!」と大きな声。驚いて振り向くと、白衣の大きな男性が満面の笑みで両手を差し伸べ私の手を温かく包み込んでくれました。病院長の平井愛山氏です。その足で院長室へ案内され、「いまから患者さんと家族とのインフォームド・コンセントで1時間以上はかかりそう、まもなく藤本さんたちが来るので、地元産の採れたての枇杷を召しあがって待っていて欲しい」と、そそくさと患者さんの元へ。
 すべてのドアが開け放たれた院長室に入った瞬間、まず驚かされたのは壁一面にべたべたと貼られた院長の娘さんであろう10数枚の大きな写真パネル。そして、書棚や机の上から崩れ落ちそうな蔵書の山。さらには、まるでカメラマンの部屋のように本格的な機材がところ狭しと並んでいることでした。ほどなくして「NPO法人 地域医療を育てる会」理事長の藤本晴枝さんが、そして続々と、文字通り“我が物顔”で会のメンバーが院長室に集結。そのなかにCOMLを立ちあげた当時に大阪で出会った懐かしい方との邂逅もあってびっくり。彼らは、この日の夕方、院内で開催される研修医との勉強会に参加する「医師育成サポーター」でもあるのです。
 東金病院とNPO法人が協働して、市民参加による若い医師を育てようという試みは2007年4月にスタート。院長の説明によれば、「この研修は、市民・患者・医療者などが、同じ目線で、診察室とは異なるオ一プンスペースでの出会いと学びの場になればと考えて、藤本さんと相談して立ちあげたもの」とのこと。これまでに何度もマスコミに取りあげられ、医療マネジメント学会や医学教育学会での発表が大きな反響を呼び、私もずっと注目してきた活動です。

目的を同じくする連帯感に感動

 午後5時開始の少し前、会場にはすでに常連のサポーターと数人のオブザーバー計12名が揃い、この日担当の研修4年目の女医さんと談笑。院長の登場を待つこと数分、しかし、患者さんへの病状説明が長引いて間に合いそうにないとの連絡で研修スタート。会の進行はサポーターメンバー。司会者に促され、まずはドクターから、ついで育成サポーターの自己紹介があって、若手医師養成のセッション開始。この日のテーマは糖尿病、栄養の過剰と欠乏など食事の管理について。
 『ロハス・メディカル』という市民・患者向け情報誌(無料)とドクターが用意した「食品交換表」を参考資料に、まずは講話が30分ほど。つづいて参加者からの質疑応答とディスカッションに移り、参加者それぞれがざっくばらんに体験や不安を語り、ドクターがそれに答える形で和気蕩々の90分かあっという間に過ぎました。最後にメンバーは、用意された「評価用紙」の21項目を5段階チェック、さらに「どこがわかりにくかったか?」といういくつかの設問にそれぞれ忌憚のない意見や感想、さらにはドクターヘの励ましのメッセージを記入して終了しました。
 参加して思ったことは、患者の立場として病気の基礎知識を学び、日常生活における自助努力の再認識もさることながら、まさにひざ突き合わせて語り合いながら若手医師を“育て”“支えている”という新鮮な実感。多くの学生を前に講義として語るときとは違った、直接的なワクワク感を抱けたこと。そしてさらに、初めて会う人ばかりなのに、目指すものが同じという不思議な連帯感で久々に新鮮な感動と出会えた喜びでもありました。
 院長の「研修医たちに繰り返し話しているのは、患者さんやご家族と我々の間に病気をおいて対峙するような関係をつくるのではなく、一緒になって病気と対峙する、そんな関係を常に目指して欲しいということ。志ある若手医師を、一人ひとりの特性をみながら、長所を伸ばすようにして行けば、いつか短所は見えなくなると信じて日々取り組んでいます」と語る言葉が、いまも強く私の心に残っています。
 東金病院の若手医師研修に参加して、地域住民や患者である私たちが、地域の医療をどのように“守り、育てる”ことができるのか、その方策のひとつを垣間見る機会となりました。いま、それぞれの病院が、そして、地域自治体が何を努力すべきか、課題は山積。なにより旧態依然の姿勢から脱却して市民・患者と向き合うことが不可欠。まずは、地域医療の担い手である若い医療者たちを“守り、育てる”ことから始めてみませんか?

  • ※千葉県立東金病院は、救命救急センターを備える中核病院・東千葉メディカルセンターが2014年4月に東金市内に開院するのに伴い、同年3月末で閉院。