辻本好子のうちでのこづち

No.164

(会報誌 2008年11月15日号 No.219 掲載)

まさに丸投げの救急医療対策

真剣なテーマほど一般の関心は低く……

 5月のフォーラムに入りきらなかった懸案かつ喫緊のテーマ「救急医療問題」を語るシンポジウムを終えて思うあれこれ。今回は少しばかりの愚痴をお許しください。
 愚痴の前にまずは感謝として、医療界の実情を知る多くの方々から、シンポジストのお顔ぶれを「すごい豪華メンバー」と高く評価いただき、そうした方々のご協力をいただけたことに心よりの感謝。そして、リポートにも報告させていただいているように、限られた時間でありながら、それぞれの現場・お立場から、じつに中身の濃いご報告をいただいたこと。また参加者のご質問やご発言で議論を深めていただけたことにも。さらには当日サポーターのボランティアの皆さんの温かいご支援は、言葉に尽くせないほど大きな励ましをいただく想いでした。
 ただ何より残念だったのは、一般の方々のご参加が予想以上に少なかったことです。
 企画を練り上げ、シンポジストヘの依頼や連絡、会場との打ち合わせや調整、加えて事務局がもっとも力を注ぎ、会員のご協力をいただいて精一杯に取り組んだのは広報活動。今回は近畿圈に限りはしましたが、医療関係や地域行政各所へのチラシ送付とメディアヘの催し物案内掲載への協力要請など。事前予約もあったとはいえ当日までハラハラドキドキで参加者の来場を待ちました。当日は雲ひとつない見事な秋晴れ、行楽日和の土曜日の午後。一般の方々が参加費を払ってまで高い興味関心を持てるはずもないテーマ……と思えば思うほど、それでも参加くださった方に心から感謝の気持ちで一杯でした。
 しかし、しかし……結果として20万円ほどの大幅な赤字、NPO法人にとって忸怩たる思いが胸の底にドッシリと残ってしまいました。景気低迷の煽りも痛感しつつアッパーカットにクラクラしつつ、それでもやっぱり頑張ろうと気分を切り替えたそんな折も折。行政の驚くべき怠慢の実態を目の当たりにして、久々の憤りを覚えました。

呆れた軽佻浮薄な企画の数々

 昨今メディアを騒がせている行政の“預け”と称する裏金問題。必要悪とも言われる税金の不正経理、不正流用、私的流用の呆れるばかりのさまざまな手口が次々と露呈。いまさら……と唖然とさせられるばかりです。そもそも国も地方もすべての行政は年次予算を使い切ることが前提。予算を使い切らないと、次年度の予算が削られてしまうため、つじつまを合わせてでもなおと営々と続いてきた悪しき慣習。これまでにも散々メディアに叩かれてきたはずなのに、あちこちにほころびが生じてメスが入っている問題です。
 大阪府の救急車出動におけるいわゆるコンビニ受診が全国ワーストということで、医療や救急隊の現場から悲鳴があがり、大阪府医療対策課が府民の協力要請を呼びかけるキャンペーンに乗り出しました。『救急医療の利用のあり方検討会』を立ちあげて議論を進め、私もメンバーの一人として参加してきました。10月24日(COMLの救急医療フォーラムが開催された翌週の金曜日)の会議は、キャンペーン予算500万円で民間業者に委託、応募した5社のプレゼンテーションを受けて選定する作業が設定されていました。
 検討委員会メンバーには事前に5社のプレゼン資料が届けられ、しっかり吟味したうえで会議に臨む役割が与えられていました。そのシートに目を通したのが、COMLフォーラム20万円赤字の会計結果を知らされた日の朝だったのです。……これを大阪流というのか……タレント知事や吉本の芸人を引っ張り出し、お助けマンよろしくスーパーマンのマントを着せて街に出没させたり、心斎橋の大型ビジョンでビデオを流したりと、あまりにも府民を馬鹿にした軽佻浮薄な企画の羅列。私だって府民の一人、血と汗を注いだ税金がこんなにも安易なお祭り騒ぎや何一つ目新しさも感じられない上澄みをさらうだけのようなイベントに使われるなんて……と思っただけでムラムラと怒りがわいてきてしまったのです。

行政の怠慢に一斉非難

 検討会当日、冒頭は予定通りに5社のプレゼンテーションがおこなわれました。どの社も「わが社の案がベスト!」と若い社員が自信タップリに、虚勢を張った“売らんかな”の押しつけがましい型通りの説明に終始。なにしろ500万円をいかに獲得するかという熾烈な争いが目の前で展開されているのです。審査に当たる検討委員は救急医療の現場で疲弊しているドクターやナース、そして消防署の救急隊員でもあるだけに、一様に辟易とした表情。一方の行政側スタッフを眺めると発表の一つひとつにフムフムとうなずく妙に満足そうな表情。5社の内のどれかを検討委員が選んでくれれば、これで予算は消化ができると安堵しているかのような表情に見えたとき、突然、強い違和感を覚えました。内心<自分たちが努力すべきことを民間に丸投げしていいの?>と許せない怒りが湧きあがってしまいました。
 プレゼン終了後、当初は穏やかだった委員の批判が徐々に本音に変わり、最後は非難ごうごう。私もきっぱりと行政の怠慢を指摘し「1社を選ぶことに“加担”できない」意思を表明。結局、議論は結論には至らず、まさに“(お)預け”となって時間切れ。
 はてさて、次回にはその後の顛末をご報告できると思います。乞うご期待!