辻本好子のうちでのこづち

No.084

(会報誌 2002年2月15日号 No.138 掲載)

在宅医療の社会化が必要

さらに厳しくなる老人医療

 10月に実施が予定されている第4次医療改革で、とくに目を引くのが老人医療費の負担引き上げ。完全一割負担ということで外来受診の抑制が強まる一方、いわゆる社会的入院対策として、入院期間が6カ月を超える高齢者の入院基本科部分に新たな特定療養費制度が設けられることになっています。
 特定療養費とは、医療技術の高度化や患者の多様なニーズに応えるかたちで、公的保険で給付する医療サービスに上乗せする「特別なサービスの患者の自己負担」。まさに患者にとっては実質的な“ダブル負担”となる医療費の仕組みです。ここ数年来、COMLが精力的に取り組んでいる差額ベッド料も、じつはこの特定療養費の一つです。
 治療が必要にもかかわらず「6カ月たった」というだけの理由で病院を追い出された高齢患者が、つぎにどこへ行けばいいのか。療養型病床群の空きベッドが少なく、介護老人保健施設や特別養護老人ホームの施設受け入れ状況もお寒いなか、残された選択肢は在宅療養しかありません。しかし、介護保険制度が始まって3年目を迎えようとしている今日、残念ながら介護の現場は、とても安心できる状況ではありません。いまも電話相談には多くの高齢者医療にまつわる問題が届きますが、とくに在宅医療の問題で浮んでくるのは、かかりつけ医や訪問ナースなど自宅を訪問してくれる医療者との人間関係。いわゆるコミュニケーションの問題です。

介護支援専門員の切実な本音

 コミュニケーションには双方向性や継続性、さらには横並びの役割分担という問題が潜んでいるだけに、サービスを受ける側の不平不満もあれば、提供する側の愚痴や本音があっても当然です。たまたま介護支援専門員の集まりに招かれ、そのときに耳にしたケアマネージャー(介護支援専門員)やケアワーカーの切実な「なまの声」を紹介したいと思います。

●本人の希望どおりケアプランを調整したが、家族の拒否によって保留となる。
●経済的理由でサービスを削減したが、仕方がないとわかっておられるものの不満を訴えられて困った。
●親子関係が悪く家族間の協力が困難。ヘルパー支援を最大限活用すると月平均10万円の自己負担。また介護保険だけでは支えきれずに民間の家政婦支援をプラスすると30万円以上の自己負担というケースも。お気の毒で……。
●ケアマネージャーとナースを兼務しているので忙しく、時間内に処理できず自宅に書類を持ち帰って夜遅くまでかかる。精神的、身体的なストレスが増え、限界を感じ始めている。資格なんて取るんじゃなかった。辞めたいと思っている。
●申請書類などの記入、作成、提出のために市役所に何度も通う。入院中の利用者の状況把握ということで面会や、退院間近に病院側からつぎの転院先を探すように指示されたりと、居宅介護支援費にならない活動で振り回されている。
●一人暮らしで、わがまま、依存性の強い利用者。肉親も寄りつかず、入院中の治療にも非協力的で、少し良くなると半ば強制的に退院させられる。誰も頼る人がなく、生活全面を担当することになる。念入りに計画しても当日にキャンセルされたり、家事援助なのに身体介護を要求されたり、休日に自宅まで電話がかかることも。市の職員に相談したら「難しいケースだからといって、こちらに押しつけるな」と突っぱねられた。

 昨年11月におこなわれたケアマネージャー試験の合格者が過去最低、始まって以来、最少の合格者だったとか。そういえば最近、介護の現場から「ケアマネージャーが足りない」という深刻な声も聞こえてきます。鳴り物入りでスタートした介護保険ブームが冷めてきたのか、それともほかに理由があるのでしょうか。在宅療養が増えざるを得ない制度や仕組みが推し進められようとする今こそ、個別・密室的な在宅医療問題を社会的に議論することが必要です。そのためにも、まずは利用者と提供する側がもっともっと本音を文わし合うことだと、改めて強く感じさせられました。