辻本好子のうちでのこづち
No.069
(会報誌 2000年11月15日号 No.123 掲載)
患者自立支援の社会的基盤整備が必要
急がれる患者の意識啓発
国家財政の困窮で国民保険も崩壊寸前、医療経営が厳しくなって、ようやく患者の声に耳を傾けないと“生き残れない”と医療現場が危機感を抱き始めています。患者の意識が変わり始めた数年前から、COMLの電話相談に届く声を代弁して欲しいという依頼が医療現場から急増し、最近では行政からの要求も届くようになっています。
老人医療費の「一割」問題、広告規制緩和、包括医療や混合診療推進などの議論の中で、「患者中心の医療」という掛け声だけは聞こえてきても、議論の実態のどこを見ても供給者側の論理でことの解決を図ろうという意図しか見えてきません。たしかにマスコミがそうした状況変化を伝えてはくれても、ともかく複雑怪奇。理解困難な問題だけに、国民の多くは「どうせ理解できない」とはなから放棄。このままでは、国民が置き去りのまま結局、自己責任・自助努力・自己決定だけを押し付けられることになりかねません。
残念ながら、まだまだ多くの患者は受け身のまま、病苦の不安を抱え、遠慮の構造から抜けきれずに医療者の顔色を伺っているのが現実です。急に時代が変わったから「意識を変えろ!」と詰め寄っても、意識はそんなに簡単に変われるものではないことを10年のささやかな電話相談活動で嫌というほど教えられています。それだけに今、なにより重要かつ必要なことは、患者の自立を支援する社会的な環境整備です。各医療機関が生き残りをかけて取り組むのはもちろん、地域行政も「賢い患者教育」の一環として医療問題をわかりやすく提示して議論する意識啓発活動が急務です。
医療機関や行政に提言!!
最近、医療現場や行政でお話する機会を得るたびに提言している「患者の自立のインフラ整備」。まずは医療機関の場合には、最初に「よろず相談窓口の設置」。そして「情報コーナー(患者図書館)の設置」と「チーム医療の再構築」の提案です。患者の苦情は病院の改善ヒントの「宝物」。 COMLに届くような患者の本音を受け止める窓口が、どの病院にも設置されていれば、患者も発言を通して権利と責務のありようを学び、医療者との関係も今よりもっと風通しのよいものになるはずです。また自分の病気のことを勉強したいという患者のために、イラストや文字情報によるわかりやすい医療情報が簡単にアクセスできるようなコーナーに用意されていれば、患者は迷わずそうした病院を選ぶに違いありません。そしてCOMLに届く相談がすでにある種のセカンド・オピニオンであるとすれば、そのほとんどは病院内のスタッフで十分応え得る問題でもあります。そもそも患者ニーズに精一杯ドクターが対応しても充たせるのは30%、あとはチーム医療が担うもの。それだけに各スタッフが自分たちの専門性を患者にわかりやすく提示して、その役割を十分に発揮し、誇りをもって堂々と対応してくれれば、わざわざ別の病院にこっそりセカンド・オピニオンを求めたり、COMLに電話をする必要はないはずです。
そして、さらに行政の場合には、COMLのような医療消費者を中心とした第三者機関を全国各地に誕生させることを提言しています。いつでも気楽に電話相談ができて、しかも対応する人は決して「判断したり、指示や押しつけをしない」という姿勢で、あるがままのその人の気持ちを大切に受け止め、その人が必要とする情報を提供し、さらには情報の中身をわかりやすく解説する。そうした情報ナビゲーター的な役割があれば、一人ひとりがパワーを得て、自信と自己主張が引き出されます。そんな機能を果たす第三者機関が身近にあれば、患者に要求される医療の限界や不確実性を引き受けることや、自分のことを自分で決めるためにどうすればいいかという主体的医療参加意識に目覚めることだってできるでしょう。
そうした「患者の自立支援」の社会的システムが整備されてはじめて、私たち患者一人ひとりがそれぞれに 「自分らしさ」を大切にして病とともに生活することができます。医療においても「消費から投資」へと新たな時代が流れ始めています。一人ひとりが安心し、納得できる医療と出逢うための自助努力を惜しんでいたら取り残されてしまう、それが数日後に幕開けする21世紀の医療なのです。