辻本好子のうちでのこづち
No.040
(会報誌 1998年4月15日号 No.92 掲載)
注目したいチーム医療の模索
時代を反映した患者の新たなニーズとして、高まりを見せるセカンド・オピニオン。その一方で、そうしたニーズに応えようとする医療者側の模索も始まっています。今回は、医療現場が“画期的な試み”と自画自賛する取り組みの紹介です。
病院という枠を越えて4技術部門が一つに
今年1月、福岡市で『厚生省九州管内医療技術学会』が開かれました。九州地区の国立系病院に勤務する放射線技師、臨床検査技師、栄養士、理学療法士の4つの技術部門が一つにまとまって、新たにスタートした学会です。記念すべき第1回の講演に招かれ、「わたしたちが“いのちの主人公”−いま患者が医療に望むこと」というテーマで患者の思いを語らせてもらいました。
つづいておこなわれたシンポジウムは「院内感染防止について」。先の4つの医療部門それぞれの代表者から、院内感染の現状と防止対策についての熱心な報告がおこなわれました。院内感染の代表格といえばMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)。また昨年は、O-157といった集団食中毒が頻発し、栄養管理部門での食材の調達、管理、そして調理や保管において、かなりの緊張が強いられた様子がなまなましく報告されました。
公共の場である病院は、誰もが自由に出入りできるだけに、あらゆる雑菌や感染源が蔓延する場。たとえばMRSAが、当たり前に鼻の穴に潜む常在菌ということからいえば、患者や家族、医療従事者など、人が動くことで運ばれることはもとより、病室の床やベッドの手摺り、放射線室やリハビリテーション室の床、ナースステーションなど、さらにはシーツ交換による空中浮遊からもつねに検出されているようです。
患者が安心し、納得できる医療を提供するために病院全体が一丸となって、院内感染の現状の把握や感染防止対策について密に巡視することなど “当然のこと!”と思っていたのですが……。
ヘー!? そんなことが“驚異”なの?
学会終了後の懇親会で、厚生省のお役人が冒頭の祝辞として「この学会の発足にあたり驚くべきことが3つあった。一つは、4つの医療部門のみごとな交流と連携の実現。しかも、それが厚生省管内つまり国立系の病院で実現したこと。さらに驚くべきは、発足時の基調講演になんと患者の立場を招いたこと」。いやはや多少、リラックスムードが漂う場での発言とはいえ、不思議でもなんでもないと思えることが“驚異”として語られることに、むしろビックリ。<ナールホド>と、医療の閉鎖性の現実を垣間見る思いでした。
厚生省の役人も舌を巻いたという“新たな試み”であるチーム医療の出発。聞くところによれば、第2回の学会には看護部門から、是非とも参加したいという熱いメッセージが届いているとのこと。「医療行為のうち、一人のドクターの技量にかかっているのは40%程度。残りの60%はチームの協力で成り立つ」ともいわれます。患者が納得するための確認として、別の意見を求めたり、具体的な疑問の解消を望んだりするとき。まずは院内にその受け入れ体制があるか、どうか。それもセカンド・オピニオンのテーマの一つです。
たとえばチーム医療が確立している病院だったら、きっと患者にもその雰囲気が伝わってくるはず。病院全体で「患者を入切にしよう!」とする姿勢があるか、ないかは、患者が病院を選ぶときの判断基準の大切なポイントでもあります。患者の期待に応える努力として九州の地で動き始めた“チーム医療の模索”に、私は今後もしっかり注目して行こうと思っています。