辻本好子のうちでのこづち
No.029
(会報誌 1997年5月15日号 No.81 掲載)
若い医者を育てるには患者も参加
全国80の医学部・医科大学で6年間学んだのち、超難関な医師国家試験に合格した若き医者たちを待っているのが2年以上の卒後研修制度(かつてのインターン制度)。この制度は国が定めた義務規定ではなく、あくまでも本人の努力規定。受け入れ施設は全国約300施設。研修医の8割は大学病院、あとは国公立病院や一定の条件を満たして名乗りをあげた300床以上のベッドを持つ研修指定病院へ。今日も全国各地で13,500人余の“とっても若いお医者さん”が医者修業に励んでいます。
病院職員と患者の集いに参加して
知り合いのドクターから、院内初の試みの「高齢者の医療を考える会」を開く……とFAXが届き、平日の午後2時からの集いに参加してみました。会場は病院地下の職員食堂。参加者はドクターやナースはもちろん、薬剤師に栄養士、リハビリの理学療法士やケースワーカー、事務職員など約80人。患者に関わるすべての病院スタッフに加えて、患者「友の会」の高齢者の姿も目立っていました。
ドクターやナースから、それぞれが担当した5人の高齢患者さんの終末医療について、「どうすれば患者さんの気持ちを尊重できただろうか?」といった悩みや苦しみが報告されました。建前と本音が交差するなか、決して正解がある問題ではないことを確認し合い「80点で良しとされるチーム医療を目指そうじゃないか」という声があがりました。つまり不足の20点をどう補うかが大切で、医療技術を超えた人間的な関わりを問題にして行こうという提案でした。
「この病院ならチームで患者に向き合える」
終了間際にこの病院へ来て3日目、研修3年目の若い女医さんが「じつはこの病院へ来るときに医者を辞めようと決心していたんです。2年間の研修で何人もの患者の死に立ち会い、無力さを嫌というほど味わい、自分には医者は適さないと思うようになっていました。でも今日参加して、この病院なら一人で苦しまず、チームとして他のスタッフと一緒に患者さんに向き合って行けそうな気がしました。やっぱり頑張りたいと思います」。ペコリと頭を下げて椅子に座った彼女に、会場から温かい拍手が湧きました。
じつは電話相談にも「とっても若い先生が……」と、技術や態度の未熟さに対する苦情やら不信感の訴えがよく届きます。たしかに研修医が未熟なことは当然、とは言え被害が患者に及ぶのでは困ります。しかし、誰もが一度は通る道。となれば、国家財産の医者養成に患者も多少のボランティア精神で参加することが必要なのかもしれません。
ところで病院からの帰り道、信号待ちしている私に高齢男性が「さっき会場にいた人だネ。アンタなかなかいいこと言うねエ。それにしてもじつにいい話し合いだったナ。ああいう病院だから、いい医者も育つんだろうし、私たちも安心して命を預けられるんだよネ」(オットいのちを預ける云々については異論アリ! でも街角で80代とおぼしき方に患者の主体性を振りかざすのは、さすがの私にもはばかられ)「病院の姿勢や考え方が聞けた良い会でしたね。とっても勉強になりました」と答えると、彼は私の肩をポンとたたき、「つぎが楽しみですナァ。じゃ、また、会いましょう」。
こうした患者をも交えた病院スタッフとの“本音の対話”が、全国のあちこちでおこなわれるようになれば、ときには患者が医療者を癒すことができるかもしれない。そんな双方向の関係づくりができたら、どんなにイイでしょう!!