辻本好子のうちでのこづち
No.028
(会報誌 1997年4月15日号 No.80 掲載)
エネルギーに満ちた若き逸材との出会い
“批判するだけでなく具体的な提案力を身につけたい”というCOMLに、一方からは“医療者に甘い”と厳しい指摘も届きます。そもそも性善説の私。よほどのことでもないかぎり、誰に対しても対立意識は持てません。ましてCOMLで出会う医療者からは、自説をゆるぎなくされるばかり。とくに純な医・看学生には母性までをも引き出され、すぐに胸が熱くなる困った癖があるようです。
教育現場では学べない気づきの数々
春休みの学生君12人が全国から集合。東は福島、西は長崎、交通費はもちろん参加費自弁の文字通りの主体的参加。午後1時から夜8時まで4人のSP(模擬患者)との、それは熱心で感動的とも言えるコミュニケーションセミナーが繰り広げられました。現役の先輩看護婦や医学教育者、COMLの面々というこわもての見学者を前に、彼らの緊張感は筆舌に尽くせぬものだったようです。
終了後、全員が輪になっての語り合い。まず最初にSPの上手さと真剣さに敬意と感謝の気持ちが示され、人の話を聞く難しさや十分なやりとりもないのにわかったつもりになっていることの振り返り。なかには「大学病院の医者口調に成り下がっていた」と、ビックリさせられるような反省も飛び出しました。こうして人の数だけ患者の思いがあることの気づきに加え、とくに医学生と看護学生が互いの立場と役割を目のあたりにしたことで、教育現場では気づけない“違いを認め合えた”ことの喜びなど。肌身で感じた思いの数々が、尽きることなく真剣に語り合われました。
と、ここまでは、どのセミナーでもおこなわれることですが、じつはこのあとに面白い展開が待っていました。
真剣に可能性を追い求める素顔
第二幕は、空きっ腹を抱えてなだれ込んだ居酒屋。緊張が解けていつもの顔に戻った学生諸君の見事な饒舌ぶりと、それにたじろぎ押され気味のオバサンやオジサンも妙に元気になって喧々囂々。世代の違いばかりか何とも理解しがたい集団のすさまじいまでの喧騒に、店の人も目を丸くしていました(あとでソッと迷惑をお詫びしておきました)。なかに経済や法科など他の学部を卒業してから医学部に入り直したというメンバーが半数ほどいて、いわゆる“大人の会話”が成立。人生論からそれぞれの価値観まで、興にまかせての議論に花が咲きました。
「SPが授業のなかでおこなわれたとしても、学校では仲間の手前、そんなに真面目にはなれない。今日は自分に学びたいという気持ちがあったし、ほかの人たちの真剣さで本気になれた」「年齢が上ということもあって、どうしても浮いてしまいがち。合わせようという気持ちから、学校では軽い話しかしない」「今日のような“価値観の違い”なんていう話はほとんどしたことがない。ほんとに久しぶり……」という彼らの目がキラキラと輝いていたのが印象的でした。今どきの若者らしいドキッとするような言葉も飛びだしたものの総じて真面目。“ひ弱”とさげすまれ、白けた振りで権威に抵抗しながらも可能性を追い求めようとする素顔を垣間見た思いでした。
ほんの時々すれ違う、わずかに関わるだけの医療者に“あ然”とさせられることがあるけれど、ひょっとしたらそれは彼らを迎え入れる私たち患者を含めた社会が悪いのかもしれません。「いのち」や「からだ」にかかわるプロの道を真剣に目指す若き逸材。古い価値観を押しつけるだけの教育に飽き足らず、自らSPとの出会いを求めて集まった彼らのはじけんばかりのエネルギーに圧倒されながら、これからも若い可能性を信じ、SP活動を通して患者の思いを届けたいと思いました。