辻本好子のうちでのこづち
No.026
(会報誌 1997年2月15日号 No.78 掲載)
病院が一丸となって患者の選択や決定を支援
ボストンのベスイスラエル病院を訪ねた5年前、ラブキン院長から1970年代の懐かしいエピソードをお聞きしました。そのなかで「患者の権利宣言」(1972年全米病院協会採択)のさきがけにもなった掲示物を院内に貼ったときの病院内部からの猛烈な反発の顛末。それとまったく同じような出来事が、ほんの数年前の日本でも起きていたということを知りました。
一方通行では理解はうまれない
5年前ある病院で、玄関の正面中央に病院の基本姿勢の表明として「患者の権利に関する宣言」のパネルが掲げられました。掲げるまでの半年間、医局部門から出された消極論は、患者が権利を主張すると診療が混乱するという不安と危惧だったそうです。その後、臨床と事務系、さらには患者も加わってインフォームド・コンセント委員会や権利擁護委員会を組織。形式的な同意書の見直しや、入院案内書をわかりやすい文章に作り直すなど、病院をあげて「患者に詳しく説明する努力」の姿勢をアピールしました。そして、患者にも主体的な医療参加を呼びかけるなど、積極的な働きかけがつづけられたのです。
ところが、パネルを掲げた翌年におこなった外来・入院患者2,000名へのアンケート調査で、苦労して作った入院案内書も権利宣言のパネルもほとんど患者に読まれていないという現実を知らされるのです。「いくら素晴らしいパンフレットを作っても渡しただけではだめ。どういう説明をして渡すかが大事。権利宣言を掲示しただけでは患者側のお任せ主義は何も変わらない」ことに気づくこととなります。
ひるむことなく、その後もつぎつぎと院内活動は展開されました。たとえば、患者本人や家族はもちろん、ドクターをも孤立させないための「告知支援チーム」。また、食事こそが入院生活で患者が主体性を発揮できる唯一として、退院後の食生活を自己コントロールできるよう、栄養士によるベッドサイドでの相談活動など。患者の自己決定や自己選択能力を支援するための模索を、病院全体が一丸となって取り組んできました。
病院の考えが伝わるパンフレットづくり
今年、新年早々の取り組みは、パンフレット委員会による病院パンフレットの作り直し。まずは昨年のうちにコピーライターなどデザイン関係のコンペ(競技会)が行われ、最終的に選ばれた女性のコンセプト(企画や宣伝の中心となる考え方)は病院内の風景や設備、あるいは大型医療機器を並べて紹介するというありがちな内容でなく、病院の考え方が伝わってくるような読み物にすること。冒頭に対談が企画され、院長の相手として私に白羽の矢が当たったというわけです。
「これまでの病院全体の取り組みが、患者の目には自己満足としか映らない。じつはCOMLも同様で、自己満足であることを自覚してはじめて、つぎの視野が開けてくる。ようやく患者と目線が並び、医療スタッフの方々が身近に感じられて、とても嬉しい」。院長との対談のなかで、率直な思いと新しい展開への期待を遠慮なく述べさせていただきました。そして、院長からは「今後もCOMLとほどよい緊張関係を」と望んでいただくことができました。
さてさてどんなパンフレットが出来あがるかちょっぴり怖く、また楽しみでもあります。