辻本好子のうちでのこづち

No.010

(会報誌 1995年8月15日号 No.60 掲載)

「インフォームド・コンセントの在り方に関する検討会」
の最終報告を読んで

 厚生省の諮問機関「インフォームド・コンセントの在り方に関する検討会」の最終報告が、6月22日に座長の柳田邦男さんから健康政策局に提出されました。1993年7月から2年間、つごう12回の会合で15名の「有識者」が医療現場における普及を検討した結果です。

医療側の優位性を感じる検討会メンバー

 検討会のメンバーのほとんどは医療側の立場、医師会の理事や医・歯・薬学部の大学教授をはじめ大病院の院長や看護部長など。いわゆる患者の立場としては評論家の柳田邦男さん、作家の上坂冬子さん、そして、真実を知らせずにがん闘病の夫(ヒデ)を看取った歌手のロザンナ加藤さんの3人です。
 インフォームド・コンセントの根本的な問題である患者と医療者の関係性の見直しと、医療の不確実性を患者に伝えることの必要性についてはまったく触れられていません。最終的に医療者の配慮を求めるだけの形になってしまったことは、検討会の議論に参加した患者の立場が3人でしかなかったことに問題はなかったのでしょうか。ほんとうに彼らが患者の代弁者足りえたか、あるいは発言力がどれほどあったのか。医療現場における患者と医療者の関係が検討会につながり、議論における優位性が目に浮かぶような気がします。

報告書に具体策までは語られず

 報告書では、インフォームド・コンセントをより良い医療を進めるうえの「なくてはならない手段」とし、患者には自らの状況を認識し、前向きの闘病と生き方を「自覚すること」を求め、医療者には専門的職業人として、患者の生き方のより良い支援者となることに「生き甲斐を感じる」ことを基本としています。そして、患者の不安を取り除くために検査や治療法の内容はもちろん、結果だけでなく、治療後の生活の変化やかかる費用についても「患者がその内容を十分理解したかどうか配慮すること」を医療側に求めています。さらに文書による同意の確認を「望ましい」とし、インフォームド・コンセントの法制化は「画一的な対応を招くおそれ」を理由に否定しています。
 残念ながら報告内容は、これまですでに十分語り尽くされた理想論の羅列にすぎず、患者と医療者がもっと向かい合ってゆくために「どうすればいいのか?」の具体策は一向に見えてきません。嫌が上にも机上論にありがちな、現場とはかけ離れた“温度差”を感じないわけにはゆきません。

 たまたま報告書が提出された翌々日、岡山で柳田邦男さんとお仕事をご一緒し報告内容の話題で盛り上がりました。テレビのバラエティー番組のタイトルと重なるような『元気の出る……』というサブタイトルに違和感を覚えていた私は、率直に尋ねてみました。柳田さんは「元は源、気は命とか魂を表わし、生きるエネルギーという根源的な生き方を示す、私の大好きな中国の古い言葉です」と誠実に答えてくださいました。
 わずか「元気」という二文字を理解するにも、これだけの説明があってようやく納得。改めて、インフォームド・コンセントには「対話」と「コミュニケーション」が重要であることを痛感させられました。