辻本好子のうちでのこづち

No.104

(会報誌 2003年11月15日号 No.159 掲載)

私と乳がん⑱

改めてセカンドオピニオンの大事さを実感
気持ちが揺れた退院後の3週間

 診断が確定して、手術が必要という説明を受けている最中にも<仕事は続けられるだろうか?><COMLの活動に支障が出たらどうしよう!>と、そんなことばかり考えて涙も出てこなかった私。NPO法人になった直後だったこともあって、<負けてなるものか!>と自らを奮い立たせるしかありませんでした。おそらくそのときの気持ちが、屈折した形の「否認」であり「怒り」だったのでしょう。
 そして、また、一日も早く“日常”に戻りたいという思いは、絶対、誰にも邪魔されたくないと、自分でもビックリするほど強いものでした。いつもかたわらで心配げな山口に対しても、「お願いだから、優しさを押しつけないで!」。そうした突っ張る気持ちの裏で<ごめんなさい>と申し訳ない気持ちでいっぱいでした。退院から1週間後、いよいよ仕事が始まって忙しい日常が戻ったその日から、山口は片時も携帯電話を手放さず握り締めていてくれました。
 そんな私でしたが、もちろん不安がなかったわけではありません。退院の前の日、次回の外来予約を決めようとするなかで、主治医の外来担当日に私の仕事が入っていたり、また私の都合がいいと思う日には主治医が学会で出張だったりと、なかなか調整がつきませんでした。結局、3週間後ということで日程が決まり、その日に摘出した部位の病理診断の説明を受け、今後の治療方針を決めることになりました。その会話のなかで、とりあえず大まかな治療の方向性が示され、そのとき初めて「FEC(フェック)」という化学療法が選択肢の一つとして目の前に登場したのです。
 それまでは漠然とした不安だった気持ちが、具体的に揺れ動き始めたのはそのときからです。まず一つは、ほんとうに3週間もの間、なんの治療もせずに放置していていいんだろうかという不安。そして、つぎは、恐れていた化学療法が具体的に示唆されたことです。すでにリンパ節を3分の2以上も摘出しているのですから、そんなにあわてて次の治療をしなくても大丈夫なはず——と、理屈ではわかっているのです。しかし、ひょっとして取り切れなくてがん細胞が残っていたら、この間に悪さを始めるかもしれない。とすれば、一日も早く叩いてしまいたいという気持ち。ところが一方では、悪いものは(手術で)取ってもらったんだから、もうこれ以上、からだに悪さをする化学療法や放射線治療など、絶対に受けたくないと相反する思いがせめぎ合い、気持ちは大きく揺れていました。
 本来ならば2週間ほどで、摘出した部位の病理検査の結果は出ます。つまり退院後1週間くらいには結果は出揃っているはずです。それなのに私と主治医の都合が合わないために退院してから3週間もの間、自分の病気の“正体”を知ることができない。たったそれだけのことが、こんなにも心を揺らすとは……。
 張り裂けそうになる気持ちをどうすることもできず、自分の気持ちをコントロールできないことがこんなにも悔しく苛立つものかと驚きすら感じました。正直いって、このときばかりは講演予定を変えてもらって外来を早めてもらおうか……と弱気に襲われました。しかし、「一日も早く仕事に復帰したい」と突っ張って、ワガママをいっている以上ここは我慢、我慢。たとえ1週間、結果を早く聞いたからといって大勢に大きな差はないはずと、懸命に自分に言い聞かせていました。

友人知人の支援に感謝

 ただ、逆に考えれば、たっぷり時間があるということは、あれこれと考えたり、迷ったり、十分に悩むことができるという“メリット”でもあるわけです。そう気を取り直し、周りの支援を得ながら、たとえば提示された「FEC療法」についての文献をインターネットで検索し、民間療法のあれこれを調べ、さらには乳がん患者が自由に意見交換しているインターネット情報や幾冊かの体験談を読みあさりもしました。
 しかし、そのとき、私にとってもっとも大きな励ましになったのは親身になってくれた友人知人の支援です。なかでも、とくに乳がん患者である先輩患者の具体的な体験談を聞くこと。そして、なにより、その人が日々元気に生活している“日常”に接すること。そうすることで、元気になったときの自分を鮮明にイメージすることができました。
 たまたま北陸に仕事があって、「絶対に会おうネ!」と待ってくれていた友人は、乳がん患者になってから人生が大きく変化した人。いまでは地域で活発な患者会を主催する忙しい身です。その友人と温泉に行って、互いの手術跡を見せ合い、時のたつのも忘れて語り合いました。そして、彼女が信頼する主治医に会わせてくれたことも大きな支えとなりました。数年前(もちろん私が乳がんに罹患する前)にお会いしたときには、COMLの活動や患者の主体的医療参加の必要性を熱く語り合いましたが、このたびはまさに私が患者本人です。
 いわゆるセカンドオピニオンということで、FEC療法の一般論としての見解や、現状で把握している私の病状を伝えたうえで、彼が最適と考える治療についての意見やその根拠など。当然ながら、他にも治療方法はあるということと、それぞれについて詳しい説明やアドバイスがなされました。友人というレベルで温かく、そして、専門医という立場で冷静に向き合っていただけたことが、どんなに私の不安を軽減してくれたことか。改めて、セカンドオピニオンの重要さを実感し、感謝の気持ちで一杯でした。