辻本好子のうちでのこづち

No.077

(会報誌 2001年7月15日号 No.131 掲載)

治療は“協働”作業で

 患者と医療提供者はスタートラインに立った瞬間から宿命的なすれ違いが始まっているけれど、二人三脚でゴールに向かう協働作業でもある——と、私はいつも語っています。耳を傾けてくれる人たちが「キョウドウ」というキーワードに、どんな文字を当てはめてくれているのか、そのたびに気になります。でも文字の説明をしていると話が前に進まないので、“協働”にこだわっていることまでは言及しません。辞書(三省堂『新明解国語辞典』)には「一つの目的を達成するために補完・協力し合うこと」とあって、まさに私のこだわる所以です。ちなみに共同は「二人以上の人が仕事を一緒にすること」で、協同は「二人以上の人が力を合わせて仕事をすること」となっています。
 もちろん医療は、患者の権利が尊重されるものでなければなりません。が、信頼関係は双方の努力で築くわけですから、当然、患者にも主体的な参加意識と責務を引き受ける覚悟が必要です。

“権利”だけでなく“責務”も採択

 今年1月から、新宿の街を牌睨(へいげい)する都庁42階の会議室で、衛生局主管の『都立病院「患者の権利章典」検討専門委員会』が開かれ、私もメンバーの一人として熱い議論に参加しました。メンバーは9名。都立病院関係者3名(別々の組織から院長、事務長、看護部長)、法律と医療それぞれの専門家4名、そして市民の立場からジャーナリストと私の2名で男女比は5対4。毎回、喧喧囂囂(けんけんごうごう)と議論を重ね、ようやく6月半ばに最終報告書がまとまりました。このあと都立病院倫理委員会と議会の承認を得て、知事決定を受けて施行——という流れが予定されています。
 議論の方向性を探る最初の会議で、患者の権利だけでなく「ぜひ患者の責務を盛り込んで欲しい」と提案したところ、満場一致で採択されました。
 報告書にはパンフレット作成をはじめ、さまざまな普及のための具体的取り組み計画も盛り込みました。そして、メンバーの総意で、発表後も“監視”を続ける約束をしています。
 じつは、私がこだわる“協働”が、この患者権利章典の前文にも組み込まれています。当初は「共同」と書かれていましたが、こだわりの理由を説明したら、文句なしにすぐ書き換えられました。正直言うと、もう少しエネルギーがかかるだろうと思っていましたから、ちょっと拍子抜けするような気持ちでした。たかが文字、されど文字。やはり文意が持つ説得力だったのでしょう。
 言葉や文字にこだわってみることで見えてくること、気づき、教えられ、学ばせられることの大きさを改めて感じています。

患者の権利

①良質な医療を公平に受ける権利
②人格を尊重され、医療提供者との相互の協力関係の下で医療を受ける権利
③診療に関して十分な説明、情報を受ける権利
④治療方法などを自分の意思で選択する権利
⑤自己の診療記録の開示を求める権利
⑥診療過程で得られた個人情報の秘密が守られ、私的な生活を乱されない権利
⑦研究途上にある医療に関して、十分な情報提供を受けその諾否を決定する権利及び何らの不利益を受けることなしにいつでも拒否する権利

患者の責務

⑧医療提供者に対し、患者自身の健康に関する情報を提供すること
⑨医療上、理解できないことについて質問すること
⑩他の患者の治療や病院職員の医療提供に支障をきたさないように留意すること