辻本好子のうちでのこづち
No.057
(会報誌 1999年10月15日号 No.110 掲載)
急増する医療費の相談に妙な違和感
地元関西の民放テレビが医療費問題に関心を持ち、ワイド番組の出演がつづいたこともあって、このところ医療費の電話相談が急増しています。軽いノリのコントで、わかりやすく視聴者に訴える映像の威力を改めて実感。なにしろ放送中からテレビ局に続々と体験談や質問のFAXが届き、終了直後にはCOMLの電話が鳴り響いたのですから。それだけ医療費が、患者の身近な問題になってきているということなんでしょうか。
ズレ始めた消費者意識
COMLの「C」は消費者(Consumer)の頭文字。活動当初から「消費者意識で生活を守るように、医療にも消費者の目を向けることで患者が努力すべきことが見えてくるのでは?」と語りかけてきました。9年前の医療現場には当然ながら、しかも予想以上の反発と疑問があって「医は算術ではない。(医者の)誠意と善意と崇高な専門性に裏づけられた聖域の問題に消費者感覚を持ち込むとは何ごとだ!」と怒りの声も届きました。
それから7年。昨年9月に患者負担が倍増した頃から、いわゆる患者のコスト意識が一気に向上。最近は『診療報酬点数早見表』を手に対応する相談が急増しています。たとえば200床以上の病院からクリニックに変わったという患者さんから窓口負担が倍以上になったのは「なぜ?」。あるいは医薬分業になってから薬代が妙に高くなったが「どうして?」という質問。また、院内感染(MRSA)で個室に移された患者の家族から「差額ベッド料を支払うべきか?」という問い合わせなど。
先日も糖尿病でインシュリンの自己注射をしているという患者さんが、開業医から病院に転院して日に2回、自分で血糖値を測るようになったら急に医療費が高くなったが「不正請求では?」と問い合わせがあり、診療報酬を調べると『血糖自己測定値にもとづく指導(1日2回)』の加算分700点(2,100円)が増えたことがわかりました。
「指導といったって最初にチョットあっただけ。その後は何もない。制度ならしかたないが……」と、不満気な声を残して電話が切れました。
“契約”と“対立”が見え隠れ
こうした医療費の問い合わせにCOMLは、とりあえず制度や仕組みを精一杯わかりやすく説明すること(つまり根拠に基づく情報を提供したうえで)と、情報の中身を吟味し確認する“やりとり”を努力します。そうすることで、それなりの納得はしていただけるのですが……。
たしかにCOMLは医療消費者というキーワードを大切にしてはきました。けれども<うまくいけばお金が戻ってくる……>と期待する“不正請求チエックの加担”をすることが、電話相談の目的ではありません。なんとも奇妙な違和感、そして「ほんとうにこれでいいんだろうか?」という疑問も感じます。
しかし今、消費者契約法に医療を含もうという動きが浮上しています。つまり医療を契約関係の問題に位置づけることで、患者と医療機関の関係を対立的なものに導こうという意図が見え隠れしているような気がしてなりません。安心と納得のできる医療を築くために、契約関係や対立構造は決してプラスにはなりません。これからの医療は「情報開示」と「コミュニケーション」を基本に、患者と医療者がともに信頼関係を築く努力をすること。なにやら問題をすり変えて本質を曖昧にしようという動きに、私たち患者は惑わされないようにしなければ! と、こんなうがった見方が単に取り越し苦労であればいいのですが……。