辻本好子のうちでのこづち

No.035

(会報誌 1997年11月15日号 No.87 掲載)

8年目からのステップアップのために 〜3〜

 先号のアドボカシーの話はちょっと難しかったという声を頂戴し、恐縮しています。スミマセン!!
 文化も社会的背景も違うだけにいくら米国のアドボカシー活動を紹介しても、どうしても抽象的になってしまいます。そこで今回は、COMLの電話相談のなかにも最近、わずかながらのアドボカシーの精神が流れ始めていることを報告させていただきたいと思います。

“やりとり”が問題解決の第一歩

 じつは「いい病院、いいドクターを紹介して欲しい」という声がいまも届きますが、COMLは一切お断りしています。それは見ず知らずの人にCOMLの価値観を押しつけるという、失礼で無責任なことはできないと思っていることと、何より電話一本で手にいれた情報を鵜呑みにして闇くもに動くことが、決してほんとうの自立にはならないと思っているからです。なかには「紹介もできないのに偉そうな看板をあげるな!」(ガチャン)というお叱りを受けることもありますが、COMLの限界性であると同時にCOMLがもっとも大切にしているこだわりでもあります。
 ただ、そうしたCOMLの言い分に耳を傾けてもらえた人とは、その後へと会話がつづきます。“人に話を聞いてもらう”というなかから、徐々に相談者自身が自分の気持ちと冷静に向き合っても行けるようです。モヤモヤと感じていたことを言葉にしてみることで、転院を望む気持ちの底に潜んでいた具体的な疑問や不満が浮かびあがり、それをしっかり見据えることから問題解決の一歩が踏み出せる。「COMLとの“やりとり”が自立のきっかけになった」という声を数多くいただき、それが私たちの励みでもあります。

自分のことは自分で、と気づける情報提供

 行先のわからない電車に無理矢理に乗り込まされたり、真っ暗なトンネルをたった一人で進んだりするときのような不安を抱えた患者や家族にとって、COMLと出会ったことで「一緒に考える人」の存在を実感してもらえれば、という願いの一方で、最近は文献や資料がそれなりに充実してきたことから、教科書レベルの情報提供についてはかなりの範囲の努力ができるようになってきました。そして、さらに高齢者の転院問題については、健康保険組合の連合会が運営する介護相談センター(※)を紹介することが増え、いわゆるCOMLのこだわりを見つめ直す機会にもなっています。
 紹介したしばらく後に「お陰様で……」という感謝の言葉や、その後の結果の報告をいただくなかで、個別・固有の病院やドクターの紹介でなくとも地域の医療機関や施設など複数の手がかりを入手するだけで患者や家族が“本気”になれる、という現実を教えられることが増えてきたからです。つまり「何の手がかりもないから動けない」と思い込んでいた人でも、具体的な複数の選択肢が入手できると、一つひとつを自分で確かめたいという気になるということです。
 決して誰かが助けてくれるわけではない。やっぱり自分のことは自分で守らなければ……と気づけるような情報提供があってこそ、自立の支援だと改めて実感させられています。ただ、たとえば健康保険組合連合会の介護相談センターの情報収集に10億円かかったことからも、どんなにCOMLが頑張ったところで絶対に真似のできることではありません。おそらく行政や企業はここ4〜5年内に、こうした情報網を急速に充実するでしょうから、できればCOMLがパイプ役となって一人ひとりのニーズにつなげられないものか……と考えたりしています。
 そのためにはCOMLがいま以上、社会的に認められることが必要になってくるのでしょう。非営利組織(NPO)というCOMLが、今後どうあればいいのか? さらに次号で考えてみたいと思います。 (つづく)

※この号で紹介した健康保険組合連合会の介護相談室センターは現在、ありません。