辻本好子のうちでのこづち

No.177

(会報誌 2009年12月15日号 No.232 掲載)

“国民の健康会議”で新政権への期待を発言

 全国公私病院連盟主催「第21回国民の健康会議」が11月25日にヤクルトホール(東京・新橋)で開催されました。
 プログラムの幕開けは『国家の品格』で一躍時の人となられた数学者で作家の藤原正彦さんが「日本のこれから」と題し、舌鋒鋭く60分にわたり、痛快な政治批判を展開されたとのこと。残念ながら私は、同時刻にパネラーの打ち合わせがあって、会場で拝聴することはできませんでした。
 つづくパネルディスカッションのテーマは「新政権に望む医療」。司会は医事評論家の行天良雄さん、パネラーは全国自治体病院協議会会長の邉見公雄さん、板橋中央総合病院理事長の中村哲也さんと私。そして、メインは民主党参議院議員(民主党政策審議会会長)の櫻井充さん。先のお二人が病院経営の立場で新政権への期待を語っている途中に、隣に座った櫻井さんが「与党って、大変なんだネ」とそっと耳打ち。「もちろんですよ!」と厳しく答えて私の順番に。20分という限られた時間に発言した一部をご報告します。

新政権に望むこと

 医療問題以前に、まず新政権に望むことは「覚悟と本気」そして「行動変容」。同時に民主党を選んだ国民にも「覚悟」が求められていると思う。選んだ政権を支えることも一票を投じた主権者の役目である以上、たとえばマニフェストが修正に追い込まれることを見守る覚悟も今後必要となろう。ただしそこには修正に至るプロセスやその後に辿る道筋を国民にきちんと説明する与党としての義務を「覚悟と本気」で果たしてもらわねば困る。現実を理解したうえで受け入れ、迷いを去り、道理を悟ることで国民が納得できれば、主権者の意識も変わり「行動変容」にもつながる。それがまさしく、このたび国民が選んだ「政権交代」の目指すところと信じている。
 新政権スタート当初、大臣らが頻繁に“現場”に足を運ぶなど誠実さが垣間見られ、改革の期待が大きく膨らんだ。しかし露出度が高まり、メディアの攻勢で、皮肉交じりの象徴的な場面が「これでもか、これでもか」と、まさにサブリミナル効果のように国民の潜在意識に及ぼす影響は計り知れない。その結果、民主党の「芯」に潜む、55年体制の自民党と何ら変わらぬ体質が見えてきて、膨らんだ期待が少しずつしぼんでいる。
 大挙選出された新人議員に、とくに期待することは「勘違いしないで!」という国民の素朴な願い。COMLが1999〜2000年に差額ベッド料問題でともに闘った櫻井さん。当時は1年生議員の熱血漢、新鮮なイメージだったが2期12年でベテランの域、決して若手とは言えない。どうか新人議員には、古いタイプの政治家の背中ではなく、国民のために真摯に働く先輩の背中を見せて欲しい。議員同士が「先生」と呼び合う慣習を止め、櫻井さんが医師として培った相互批判(ピアレビュー)の精神を活かし、政権交代の意義を深めてほしい。
 医療問題については、年金に精通した大臣の得意分野でないためか「置き去り感」が強く、先の見えない不安を抱かされた。少しずつ見えてくる改革にも「アレ?」という疑問を抱かざるを得ない問題が浮上。たとえば中医協人事、たしかに医師会主導の排除は必要、しかし新しいメンバーの顔ぶれが先の選挙の恩賞人事のように見えてくると、やはりこれが政治主導なのかとガッカリ。前政権と何ら変わらぬ“与党体質”を見せつけられるようで期待感が薄れてもいる。

壊すだけでなく問題点の抽出を

 以上、少々長い前置きで新政権への期待を語り、医療改革について言及。まずマニフェストで1.2兆円投入すると掲げた政権公約の項目をスライドに羅列し、「解決します!」と豪語するも「財源は??」と示し具体策が示されず先の見えない不安が国民・患者ばかりか医療現場のモチベーションまで下げている。前政権が過去5年間、社会保障費を毎年2,200億円削減してきたツケは大きく、いまや先進7カ国で医療の質は最下位。前政権の負の遺産をどう解決するのか、壊すだけでなく問題点の抽出を急いでいただきたい。
 たとえば急性期病院の診療報酬アップを公約し、喫緊の医師不足対策に歯止めを掛けようとする方向性はたしかに国民の評価するところ。しかし収入増がどこに活きるか、病院経営だけが潤うことにならないか。現場で疲弊している救急医、小児科医、産科医の給料にすぐさま反映するとは考えにくい。果たして、急性期病院の診療報酬アップで勤務医のモチベーションが上がり、国民・患者が恩恵を受けられるのか疑問は払拭できない。
 急性期医療に光を当てることで、当面、大方の民意の賛同が得られたとしよう。しかし、開業医が被害者意識に回ることで、たとえば過疎地の医療が置き去りになる懸念がぬぐえない。一軒の診療所しかない山村で、高齢の医師が細々と地域の人たちのために骨身を惜しんで医療を提供しているなか、診療報酬が下がり、都会で医師になった息子も帰って来そうもない。幸い借金もないし、体力にも限界を感じた、「これを機に閉院しよう」となれば、たちまちその地は無医村。あこぎな開業医の不正医療が報じられるたびに裏切られてはきたが、すべての開業医に当てはまる話ではないはず。診療報酬議論からは「勤務医vs.開業医」の構図しか見えず、国民・患者不在……など、先の見えない不安の数々を展開、さいごに国民・患者が「民主党に変わってよかった!」と思えるような政治主導を願うとまとめて時間切れ。

 つぎに登壇した櫻井さんが開口一番、「旧友と思っていた辻本さんからが一番きつい発言だった」に始まり、財源の話題を中心に持論を展開。近い将来、櫻井さんをCOMLに招き、わかりやすい持論を聞き、素朴な議論をする約束を得てきました。