辻本好子のうちでのこづち

No.161

(会報誌 2008年8月15日号 No.216 掲載)

「安心と希望の医療確保ビジョン」を終えて②

 前回に引き続き、今回はビジョンの3本柱の二つ目「地域で支える医療の推進」の報告です。
 この項は、とくにビジョンを貫く2大原則『政府・厚生労働省の権限を拡大せず、現場・地域のイニシアチブを第一とする』『改革努力を怠らない』に大きく関わり、私たち地域住民にとっても大切な課題がいくつも並んでいます。現在、どの自治体も頭を悩ませている「救急医療」と「地域完結型医療」。つづいて急激な高齢・少子時代における、もっとも患者にとって身近な問題でもある「在宅医療」。そして、さらには「地域医療の充実と遠隔医療」。それぞれの課題について、以下のような将来像が描かれています。

「救急医療」の改善

 阪神大震災後に医療界が注目した“トリアージ”というキーワード。これは災害などで多数の負傷者が出たときに治療の優先順位を区分する、いわゆる「命の選別」です。地域全体で救急患者の振り分け、つまりトリアージをおこなうという考えが柱です。まず、そのために必要なものとして、患者の病状に応じて効率的に振り分ける役割を勤める“人の養成”と“システムの確立”があげられています。たとえて言うと、飛行場の管制塔機能を地域に作るということ、そして、その役割を担える人材を育成しようということです。
 具体策としては、まず地域行政が救急患者の実態と周辺にある問題を調査・分析する。そして、地域全体の医療機関それぞれが得意とする専門分野の情報を住民に提供し、地域の人々とそうした情報を共有したうえで、効率的な振り分け方をどうするか。それを地域で議論することとしています。
 つぎに救急を担当するドクターの交替勤務体制を整備し、急性期を脱した患者を受け入れる病床を確保する。そして、夜間・休日の救急に地域の開業医の参加・協力を求めるという、ここにも“情報システム”の整備と“人の確保”の推進があげられています。とくに夜間の救急利用について、患者側の理解・協力が欠かせないとして、現在の小児救急電話相談(#8000・大阪府では医師会の委託を受けて看護協会が担当しているモデルケース)を高齢者や成人領域にまで広げるなど“救急電話相談事業の拡充”を検討することと、各家庭に緊急時の受診マニュアルなどを配布して協力を求める計画が図られています。

「地域完結型医療」

 これまでのように、患者が一つの病院にかかって、いろいろな科を受診するという「医療機関完結型」ではなく、地域の医療機関のそれぞれの得意分野を活かして、一人の患者に必要な医療を地域全体で提供して完結できる仕組みを再構築しようという計画です。これも医師不足対策の一つです。
 具体策として、ここにも最初に行政の役割が浮上します。まずは地域住民のニーズを調査・把握して、その結果を医療機関に情報提供。そうすれば各医療機関が地域のニーズに応じた医療の提供を努力して、地域住民はその情報をもとにネットワークを活用して受診するようになるという絵(構想)が描かれています。さらに地域のクリニックも一人ドクターではなく、複数のドクターによるグループ診療を推進し、夜間・休日の初期救急を担当する機能を強化しよう、とも。そうした情報を地域住民へ提供して、地域のなかに円滑な医療ネットワークを構築することとしています。
 ただ現在、どこの自治体も財政逼迫できゅうきゅうとしているだけに、果たして自治体が調査・分析・把握という作業に簡単に取り組むだろうか? また、開業医は一国一城の主、それぞれが高いプライドを誇る専門家だけに、二人三人が寄って円滑なクリニック経営をしようという気になるだろうかなど、患者の杞憂は山積みです。

「在宅医療」の推進

 これから患者は、医療機関に期待するだけでなく、住み慣れた家で療養あるいは最期を迎えることを考えることが必要。そのうえで、患者にとって切れ目のない安心できる“つながる医療”の連携を地域の中に構築するとしています。
 まずは訪問看護ステーションの規模を拡大し、訪問看護の更なる普及を目指すこと。そして、末期がんの患者や精神・神経疾患などの分野にも対応するナースの専門性の深化を図るとしています。また地域の薬局は、夜間・休日も対応し、在宅療養の患者宅へ医薬品や衛生材料を届ける供給体制と一人ひとりの患者に適切な服薬支援をする体制を確保する仕組づくりを目指すとしています。
 歯科医療についても、高齢者の健康増進や誤嚥性肺炎予防など、口腔機能の向上と維持管理を重要としたうえで、在宅歯科診療の推進と人材育成を図り、患者・家族が在宅医療や介護に不安を感じないですむような情報を積極的に提供すること。そして、ボランティアや民生委員などの協力で精神的支援(こころのケア)の地域活動を推進するなど、地域住民と医療者との連携促進をあげています。
 さいごの「地域医療の充実・遠隔医療の推進」については、へき地などの現状を把握し、その地域に必要な医療体制を構築することと、ドクター自らが進んでへき地医療に参加する方策の検討と支援。とくに遠隔医療においては、医療の地域格差の是正、医療の質と患者の利便性向上のために情報通信機器を整備することで一層の推進を図るとしています。
 しかしそれにしても、どこにそんな財源があるんでしょうか? やっぱり画餅じゃなければいいのですけれど……。