辻本好子のうちでのこづち

No.159

(会報誌 2008年6月15日号 No.214 掲載)

カードで個人情報が一元管理!

大臣直属の会議に参加して

 本年(2008年)1月から厚生労働大臣のアドバイザリーボード『安心と希望の医療確保ビジョン』がスタートしています。メンバーは6人で、大臣、副大臣、政務官、国立病院機構理事長、在宅など地域医療に取り組む日本医師会理事、そして私です。毎回、緊張とともに議論に参加しています。これまで8回開催された議論の詳細は、厚労省のホームページやさまざまなブログなどで紹介されています。しかし、2時間、ときには3時間以上にも及ぶ議論の膨大な議事録に誰が目を通すのか。やはり、メディアが取りあげて初めて、多くの国民の知るところになるだけに、現在はごく一部の人が興味・関心を寄せるだけのマイナーな会議でしかありません。
 与野党が後期高齢者医療制度を政争の具に、激論を戦わせている最中の5月14日。国会答弁を終え、遅れてビジョン会議に参加した舛添大臣に、私は「後期高齢者医療制度の現在の混乱は、明らかに厚生労働省の説明不足と情報提供不足の結果であることをしっかり認識してほしい。国民・患者が賢く妥協し、賢くあきらめ、賢く選択するためにも、新たな制度や仕組みについてわかりやすい説明をしてほしい」と、今後の願いも込めて思いを伝えました。

不安をよそに着々と進む手続き

 今後の願いとは、3年後に迫った新たな『社会保障カード(仮)』についてです。
 昨年9月にスタートした「社会保障カード(仮称)の在り方に関する検討会」にもメンバーの一人として参加しているのですが、当初から大きな疑問と戸惑いがありました。すでに7回開催され、これまでに対象分野、カードの要件、発行・管理のためのデータベース、利用制限、発行方法、費用負担などの論点整理を済ませました。そして、ヒヤリングと称して、カード管理者の立場になる(かもしれない)自治体などの意見を聞くという一応の形をこなし、今年1月に「社会保障カード(仮称)の基本的な構想に関する報告書」を公表。現在、パブリックコメントということで、申請や手続き方法についての具体的な4案が示され、電子メールや郵送で広く国民の意見を募集するという形通りの手順を着々と踏んでいる最中です。
 3年後の2011年度中にスタートさせる『社会保障カード(仮称)』とは、要は国民一人ひとりの年金・医療・介護を一枚のカードで、国あるいは自治体(未定)が“一元管理”しようという新たな制度です。そんな制度が「3年後にスタートするんですよ!」と声を大にして伝えたいお知らせでもあります。
 そもそも「社会保障カード(仮称)」構想は小泉内閣の「聖域なき構造改革」の流れをくんだ安倍内閣が打ちあげた「IT新改革戦略(2006年)」の産物。その後、経済財政諮問会議に後押しされ、2007年6月に閣議決定した「経済財政改革の基本方針2007」にもその内容が盛り込まれています。年金問題で国民の不信感がピークに達した昨夏7月、政府・与党が「年金記録に対する信頼の回復と新たな年金記録管理体制の確立」を目指し、今後は年金の記録を“適正かつ効率的に管理する”とともに、つねに国民が自分の記録を容易に“管理・閲覧”できることで、年金の支給漏れなどにならないための抜本的見直しという位置づけで導入が決まった……というのがおおまかな経緯(うーん、確かに議論の途中経過なんて、じつに面倒な話で興味なんて湧かないですよネ)。
 IT用語の飛び交う専門家集団の議論のなかで、<たしか……住民基本台帳制度もカードたったはず、あれはどうなるの?><情報の自己管理というけれど、ITに疎い高齢者はどうするの?><紛失したり盗まれたりしたときは?><なりすまし防止の本人確認はどうするの?><個人情報保護やセキュリティ問題、内部不正利用防止や外部からの侵入防止は大丈夫?>などなど、検討会のたびに私の小さな頭は混乱状態、次々と不安や疑問が浮かんできます。そうしたテクニカルな問題は懸案事項として、ともかくパブリックコメントを済ませ、その後の議論ということになっています。
 こうした国の制度や仕組みが変わるとき、自治体の担当者はお上(厚生労働省)からの決定と指示を、ただ口をあんぐり開けて待っているだけ。「厚労省からの報告が届いていません」「まだ決まっていないので何も説明できません」と、テコでも動かない指示待ちの姿勢。国民・住民にもっとも身近なはずの自治体窓口がこんな対応では、少なくとも制度スタート前にきめ細かな情報を知りたいと願っても叶うはずもありません。数年後に何か変わろうとしているのか、国が何を始めようとしているか、生活に密着する動きの何一つも見えない状態では心の準備すらできません。

事前の情報が必要!

 かつて病院が急性期と療養型に区分され、医療費削減を狙った平均在院日数短縮の流れが始まったとき、国はもちろん病院側の説明も不十分なこともあって「病院から追い出された」と嘆く患者や家族の声がCOMLの電話相談にたくさん届きました。地上デジタル放送や裁判員制度の問題は、数年ほど前からテレビコマーシャルや社会派ドラマで描かれ、良くも悪くも私たちはそれなりの心の準備ができているのではないでしょうか。
 制度がスタートする前に少しでも情報を知ることができれば、たとえばCOMLが開催する催しに大勢の人が参加して、議論するなかで自分自身の問題に引き寄せて考えることだってできるはずです。あるいは不安や疑問を受け付ける窓口が自治体などにあって、わかりやすい説明とともに知りたい情報が入手できれば、少なくとも今回の後期高齢者医療制度のような混乱を繰り返さずに済むのではないでしょうか。今後は、そうした願いを込めつつ、小欄で私が“必要”と思った情報を紹介していきます。