辻本好子のうちでのこづち

No.064

(会報誌 2000年5月15日号 No.117 掲載)

医療のあいまい双方向で克服の努力

薬局で対応している“白衣の女性”

 世界一を誇る電子カルテシステムを導入して新築移転した公立病院を訪れました。院長の許可を得たうえで、受付や診察室周辺、院内掲示物や案内図などのハード面、そしてスタッフの対応といったソフト面を見学するうちに、ふと患者とやりとりしている薬局の女性スタッフの姿勢に妙な違和感を覚えました。そこで、患者の途絶えるのを待って、自己紹介したのちに「患者から薬の質問を受けたら、あなたが答えるのですか?」と尋ねてみました。
 突然の質問にびっくりしたのか少しおびえた様子で、薬剤師ではないことと「すぐ薬局に連絡して薬剤師さんに来ていただくんです」と説明してくれました。(同僚に敬語はないでしょ!)と思いつつ、なんとなく自信なげな彼女の患者対応がナ〜ルホドと納得できました。おそらく、薬剤師と見まがう白衣を着た彼女を私のように薬剤師と思い込んでいる患者も少なくないはず。ああ、ここにも……と、医療現場の日常にまぎれる「医療のあいまい」を目の当たりにする患いでした。
 突然の私の質問にあんなにオドオドしたのは、ひょっとすると彼女自身、薬剤師でもないのに白衣を着ていることに多少の後ろめたさを感じていたからかもしれません。もちろん彼女が悪いわけでもなく、要は白衣を脱げば解決する問題。たったそれだけで薬局カウンター周辺の「あいまい」が解消し、彼女ももっと堂々と、イキイキと対応することだってできると思います。

透明性の確保とサービスの向上のために

 あくまでも私の想像ですが……。
 カウンター越しに、白衣の彼女を薬剤師と思い込んだ患者が「薬のことでちょっと……」と質問したとします。すると「しばらくお待ちください」と目の前でダイヤルして、「患者さんが質問しているので、来ていただけませんか?」と遠慮がちに薬剤師に連絡。そこへ薬剤師が険しい表情で現れて「何ですか?」と、奥まった相談コーナーに案内されて尋問のような対面が始まったとしたら。
 よほど強い意思を待った患者でない限り「二度と質問はやめよう」という、ある種の学習になってしまうかもしれません。残念ながら患者の潜在意識には、理屈を越えて白衣の人の前で緊張する、いわゆる白衣症候群がまだまだ潜んでいます。それだけに、病院の中で緊張を強いられるようなことはできるだけ避けたい気持ちが先立ちます。こうしたあいまい性を少しでも解消することが、医療現場の透明性を確保することとサービスの質の向上につながります。
 私たちが6年前から取り組んでいる差額ベッド科の問題も同様で、決して不払い運動ではありません。先日も小児科の勤務医を名乗る方から「小児科は差額ベッド科の収入でようやく成り立っているんだから、余分なことを言うな!」と匿名のお叱りの電話が届きました。しかし、保険で認められている医療費以外の、つまり“おまけ”でしか経営できないこと自体、そもそもおかしな話。しかもそうした現実を明らかにせず、患者に「あいまい」を押しつける医療現場の意識や構造を変えることが必要です。そのためにも患者と医療側が共通の問題意識にして双方向性の努力で解決する。
 “あいまいの克服”の一つということで差額ベッド料問題に焦点を当て、社会的議論を巻き起こし、医療現場の風通しをよくしながら共に歩む“新しい道”を探したいと思っているのです。