辻本好子のうちでのこづち

No.027

(会報誌 1997年3月15日号 No.79 掲載)

適切な情報の“手がかり”がつくる賢い患者

 電話相談7年目で、その数およそ7500件。当初は患者や家族の受け身のままの不安や不満ばかり。今では 「自分のことは自分で決めたい」と権利意識が高まり、ますます深まるばかりの医療不信などの訴え。患者を取り巻く激変の周辺が、そのままに伝わってきます。とくにがんにまつわるいわゆる告知が、医療現場で静かに、そして確実に進んでいることも教えてくれます。

患者も病気の知識が必要というものの

 「2年前天下のT大病院で腎臓がんの手術を受けた」という68歳の男性からの相談。コロコロ変わって現在3人目の若い担当医の対応が、どうにも納得できないという憤り。半年ごとの検査と月一度の受診。腹痛に腰痛に下痢、そして手のしびれまで自覚症状をさまざまに訴えるのだけれど 「心配ない大丈夫。神経質だナ」。担当医がニヤニヤ笑っているのもバカにされているようで、腹が立ってしょうがない。手術前に「切れば治る。自信と責任を持つ」そして術後には「もうこれで大丈夫」と太鼓判を押してくれたはずだったのに……。ところが強がる気持ちの一方で、ひょっとしたら悪化していて何か隠しているか、あるいはウソを言っているのだろうかと疑心暗鬼にも。誰にもぶつけられない苛立ちが次々と飛びだします。
 たとえ電話といえども1時間近くのやりとりがあれば、多少の人間関係もできてきます。私は勇気を出して「受け身のままでいいんでしょうか?」と率直な疑問を投げかけてみたところ、一瞬息を飲むような緊張感が漂って一気に不安が私を襲いました。しかし、しばらくの沈黙のあとで「たしかに何も知らなきゃ子どもを騙すようなもんでしょうな。もう少し自分の病気の勉強をしなきゃいけませんね」と明るいお声が返ってきたのです。
 患者自身が自分の病気についての基礎知識を持とう、という努力目標はCOMLの「賢い患者になりましょう」の提案の一つ。ただ、日頃の相談を受けながら、じつは素人が医学知識を身につけることの困難性と専門家の賛否両論を耳にして、決して簡単ではないと思っています。しかし、それでもやっぱり、受け身のままでいいはずもないと、思いあぐねていた矢先にこんな資料があったらいいな」と思えるステキなパンフレットが届きました。

わかりやすい患者向けの情報

 知り合いの外科医が「がんの患者さんに必ずお渡しし、病気に対する理解を深めていただくようにしている」と、独自の患者向け医療情報を送ってくれました。 A4判カラー刷り5〜7ページ、胃がんと大腸がんのほかに痔の患者向けパンフレットです。老眼鏡がなくても読めるような大きめの文字と語りかけるような平易な文章。病気そのものの解説や症状や検査方法、さらに複数の治療と手術方法の写真や図解など。手術が絶対ではないことと術後の合併症、「当院」の手術数から平均在院日数までもが示され、あくまでも患者の自己決定を促しています。
 もちろん“これさえあればいい”というものではありません。こうした手がかりさえあれば患者も勉強ができますし、“その人”が知りたいことや聞きたいことも浮かんできます。遠まわりせずとも医療者と実りある会話になって行けるのではないかしら。たとえお金を払ってでも手に入れたい。これからはそんな説明を補ってくれるパンフレットがあるかないかで、患者と医者の“その後”の関係に明らかな質的格差が生まれてくる、と私は思うのですが。