番外・COML史「賢い患者」

第7回

(『ツ・ナ・ガ・ル』2016年春号 掲載)

“虫の目”視点の患者参加活動のスタート

 1990年に活動をスタートした時点から始めていた活動は、電話相談と会報誌の発行でした。1992年2月にスタッフになった私は、早速会報誌の編集担当になりました。今でも忘れられないのが、編集担当を言い渡されたとき「これまで一度も15日という発行日を遅れたことがないから、今後もそのつもりで」と言われたプレッシャーの一言です。今になって振り返れば、「遅れたことがない」と言っても当時はまだ20号足らず。でもスタッフになりたての私にとって、20号は“歴史”でした。たかだか12ページの会報誌ですが、月刊なのですぐに1ヵ月は経過します。しかし半ば意地を通す気持ちで、「15日発行」は現在最新号の309号(2016年5月号)まで一度も遅れることなく守り通してきました。
 1991年には医療について参加者と語り合う場としてミニセミナー「患者塾」を開始。その後、私が1992年2月にスタッフとなった後に前回ご紹介した模擬患者活動を始めました。その後も、COML創始者の故・辻本好子と二人三脚で次々と新たな活動に取り組みました。1993年頃、日本医療機能評価機構が医療機関の第三者評価を始める準備に入り、「サーベイヤー(評価者)のなかに利用者である患者の立場が入らないらしい」という情報が届きました。最初、「それでは意味がない」と批判していたのですが、「ほかの団体がおこなうことを批判したって仕方がない。患者の視点が入らないのなら、自分たちでやってしまおう。日本医療機能評価機構が客観的な“鳥の目”ならば、私たちは主観的かもしれないが“虫の目”で」と1994年にプレ病院探検隊と称して長野県の諏訪中央病院の協力を得て病院探検隊の試行をおこないました。そして、1995年からは協力関係にあった医療機関に病院探検隊の活動を紹介して、「交通費だけご負担いただいて患者の視点での提案・提言を受け入れてくれませんか?」と呼びかけていったのです。
 病院探検隊は、約10名のメンバーが医療機関の管理職の案内による見学、自由見学、受診という3つの役割に分かれます。案内による見学は、見学の際徹底的に質問することが主な役割です。自由見学はある程度役割分担したうえで、受付・外来・病棟のスタッフの対応、導線のわかりやすさ、掲示板の状況、投書箱と回答の設置・掲示状況、相談室などを見て回ります。そして受診は、まさしく他の患者さんに交じって受診するのです。管理職の要望がある場合に実施しますが(小児科や精神科の専門病院以外はほぼ要望があります)、現場のスタッフには知らされていません。そのため、ある意味“抜き打ち検査”のようになります。そこで、できるだけ現実に近づけるため、持病や実際の症状を使って受診することにしています。受付、待ち合い、診察室、検査、支払いなど一連の患者の動線を辿り、終了後に保険請求を止めてもらいます。たった一度の受診ですが、複数名が経験することで、かなり多くの気づきを得ることができます。
 これまで全国81ヵ所の医療機関での病院探検隊を実施しました。現在は交通費以外に派遣料をいただいていますが、同じ病院に期間を置いて2回実施したこともあります。最近では、慶應義塾大学病院の病院長特命タスクフォースで病院改革に私がかかわっている関係から、2015年11月に病院探検隊が実現し、今後は年1回程度定期的に実施する計画で、病院の改善に役立ててくださっています。
 2001年には患者のコミュニケーション能力を高める必要があると痛感していたことから、「患者と医療者のコミュニケーション講座」というワークショップを始めました。そして2005年頃になると、厚生労働省の検討会の委員要請が増え始めたなかで、辻本好子が「今後ますます要請の声は高まるはず。でも、ある程度医療のことを理解していないと冷静かつ客観的な意見は出せないから、そのような人を養成できるような活動を企画して」と命じられました。しかし、当時は医療不信が最高潮に達していた時期で、私には時期尚早と思えました。恐らく、医療政策の最前線に接していた辻本と、電話相談の最終責任者として一般の方々のなまの声を日々聴いていた私との温度差だったのだと思います。「いつになったら企画するのか」と言われながらも時期を待ち、私のなかで「そろそろGO!」と思えたのが、2008年でした。1999年を境に医療事故・、ミスの報道一辺倒だったマスメディアが2007年に“医療崩壊”という名の下に医師不足、救急医療の危機などを取り上げ始め、ようやく医療不信が鎮まり始めたからです。そうして2008年にそれまで約20年の集大成としてまとめた企画が「医療で活躍するボランティア養成講座」でした。医療の制度、しくみ、歴史、課題、医療費など幅広く知識を得て、自ら賢い患者として医療と向き合い、ボランティアや委員活動など更に深く医療に参加する人々を増やしたいという想いを込めて、1回3時間・5回連続講座を始めたのです。